2020 Fiscal Year Research-status Report
歴史災害の実像解明への考古・歴史・地質学的複合解析による災害履歴検索地図の開発
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20K20327
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
村田 泰輔 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 主任研究員 (00741109)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関口 洋美 東海大学, 課程資格教育センター, 准教授 (70435379)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 災害考古学 / 災害科学 / 地理学 / 情報科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
奈良県および京都府の約2万地点の発掘調査や地質調査データを集成し、主に地震と洪水を中心とした災害痕跡を約7千地点で確認し、データベース化した。 その結果、地すべりや地割れ、墳墓等の構築物や寺社等の建築物の倒壊や破損痕跡が、奈良盆地東方の丘陵域や生駒山地付近に集中し、奈良盆地内の低地部で液状化の痕跡が集中することがわかってきた。これは地形的な要因もさることながら、奈良盆地東縁断層や生駒断層が起因となる周辺地盤の潜在的脆弱部の形成や、低地の軟弱地盤帯の非安定性への寄与を示唆してる推測される。これは地震被災メカニズムの新しい検討方法に関わってくる可能性がある。 また地震の発生時期に複数の画期があることがわかってきた。地震発生時期の画期は、史料を中心に東海・南海トラフの百数十年間隔の画期を示すものが論じられ(例えば宇佐美2003『最新版 日本被害地震総覧[416]-2001』東京大学出版会;寒川2007『地震の日本史』中公新書など)、さらに寒川は、考古発掘調査による地震痕跡情報の集成の有効性を示した(1992『地震考古学』中公新書)。 本研究の成果は、それらの成果を支持すると共に、さらに被災地の空間的な分布が明瞭になることによって、南海トラフなどの海溝型地震と、活断層等を震源とする内陸型、あるいはそのどちらにも与さないスラブ型地震の被災メカニズムを浮き彫りにする可能性が出てきた。 一方、洪水痕跡については、流量の大きい木津川や大和川、秋篠川周辺で比較的頻発し、多雨などの気象災害を起因すると考えられるものが多いが、それとは異なり液状化痕跡と同時期のものとして認識される痕跡もあり、地震災害と連動したと洪水として想定されるものも散見されている。今後、周辺地域の地質情報をさらに集積し、データベースを拡充することによって災害の発生メカニズムの多様性解明への端緒とできる可能性が出てきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、年度前半のコロナ禍にともなう緊急事態宣言や、周囲の罹患者の発生に伴う自宅待機等により、本研究の基盤作業となる既刊発掘調査報告書からのデータ集成作業、発掘調査現場での災害痕跡の調査、情報収集について、特に年度前半に大幅な遅滞が発生した。年間を通してこの状況が続くことが想定されたため、基盤作業の大半を既刊報告書からの情報収集に絞り、それらをデータベース化する作業の効率化やデータベース項目の多様性化対応について研究を進めた。 その結果、奈良盆地周辺について、1)遺跡データ集成数が新規に3万1千地点ほど拡充され、2)奈良県遺跡地図をデータベース上に表示することができるようになり、3)地震発生時期について複数の発生画期があることがわかってきた。さらに4)データベース表示に関わるアンケート調査を実施し、地点表示について多くの問題点が明らかとなり、次年度への改善課題となった(関口、2020)。 関口洋美、2020、災害痕跡地図上のマーカーに関する調査、日本展示学会第39回研究大会。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で進める災害痕跡データベースについて、令和3年度は「表示」「検索」についてのアンケート調査を実施する予定である。これは、令和2年度のアンケート調査において、課題が明確化したことが大きかったことを反映している。 同時にデータベースの構築においては、令和3年度もコロナ禍の問題について大きな好転は望めない可能性があり、発掘調査現場での情報収集については、一時的に後回しにし、既刊の発掘調査報告書からの情報修集成を主眼に据える。これは令和2年度、この方針によって、過去の地震発生地点の傾向や、発生時期の特定に向けた進展が見られたことを反映している。 またデータベースに組み込む史料との連携検索について、これまで連携研究者であった西山氏を研究分担者に迎え、検索内容や検索方法に加え、検索することによって過去の災害発生メカニズムと被災実態をどのように検証できるかについて本格的に取り組む。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって令和2年度計画していた、屋外発掘調査現場における災害痕跡調査、県内外への出張による災害痕跡に関わる史料調査が大幅に中止になったことにより、次年度執行を余儀なくされた。 また計上していたアルバイト人件費も、同様の理由により雇用ができず、これも次年度執行を余儀なくされた理由である。
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Research Products
(2 results)