2019 Fiscal Year Annual Research Report
量子クエンチに基づく強相関電子系の新規量子相の探索
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18H05324
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島野 亮 東京大学, 低温科学研究センター, 教授 (40262042)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 量子クエンチ / 光誘起相転移 / 集団励起 / テラヘルツ / 超高速分光 / 超伝導 / 電荷密度波 / スピン密度波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電荷、スピン、格子の自由度の鬩ぎ合い、絡み合いの帰結として多様な秩序が発現する強相関電子系に対して、それら競合秩序を人為的に制御し、さらには隠れた対称性を抽出する新たな手法として「量子クエンチ」を提案している。具体的には、波形および位相を人為的に制御した光・テラヘルツ波を用いて物質の特定の自由度を光操作し、特定の秩序を非熱的にクエンチすることにより発現する新たな秩序、隠れた対称性の顕在化を図ることを目的としている。本年度は、電荷密度波と超伝導が共存・競合する遷移金属ダイカルコゲナイド3R-TaSe_2、および鉄系超伝導体FeSe_{1-x}Te_xを主な研究の対象とした。3R-TaSe_2では、電荷密度波相において、集団励起である電荷密度波の振幅モードを高強度テラヘルツ波を用いて共鳴的に二光子励起できることを初めて明らかにした。さらに振幅モードの励起を介して、新たな隠れた電荷密度波相を示唆する準安定な状態が発現することを明らかにした。ダイナミクスの詳細な測定から、この隠れた準安定相は平衡状態の電荷密度波相と競合する秩序であり、平衡状態においてフォノンと結合する振幅モードを強励起したことにより発現していることを明らかにした。鉄系超伝導体FeSe_{1-x}Te_xでは、超伝導秩序変数の発達に対応してヒッグスモードに起因すると考えられるテラヘルツ帯の第三高調波が発生することを見出した。光励起後数psの間、この第三高調波が増強する様子を見出し、テラヘルツ周波数帯の過渡光学伝導度の測定との比較から、光励起により超伝導が増強していることを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
遷移金属ダイカルコゲナイド3R-TaSe_2における研究では、その電荷密度波相において高強度テラヘルツ波により振幅モードを二光子励起できることを初めて実験で示した。さらに振幅モード励起を介して新たな準安定相が発現することを見出したが、これは本研究で提案する量子クエンチの明確な実証例になると考えられる。鉄系超伝導体においても、光励起で超伝導が増強する様子を、秩序変数に敏感な第三高調波発生から捉えることに成功した。これらの結果は、強相関電子系の電子相制御の新たな手段を与えるとともに、その基底状態の理解にも貢献すると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
遷移金属ダイカルコゲナイド3R-TaSe_2の電荷密度波相において、振幅モードの励起を介して発現した新たな準安定相の性質を詳しく調べることで、その相の正体を明らかにしていく。具体的にはより強いテラヘルツ波励起の実験、第三高調波発生実験、準安定相における非線形分光測定を予定している。さらに、低温領域で発現する超伝導相において同様のクエンチ実験を行うことで、超伝導、電荷密度波相、準安定相の競合、相関関係を明らかにしていく。 鉄系超伝導体では、励起波長依存性を詳しく調べることで、光励起の初期過程を明らかにし、なぜ超伝導増強の振る舞いが観測されるのかを解明していく。転移温度以上での光励起の振る舞いも詳しく調べ、光誘起超伝導の可能性を探求する。
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Research Products
(32 results)