2018 Fiscal Year Annual Research Report
Experimental Verification of Three-dimensional Aromaticity
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18H05353
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
戸部 義人 大阪大学, 産業科学研究所, 招へい教授 (60127264)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久木 一朗 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (90419466)
家 裕隆 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (80362622)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 芳香族性 / 反芳香族化合物 / 三次元芳香族性 / 電子状態 / 分子構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、2分子の反芳香族分子が重なるように配置された場合に芳香族性を示すという理論的提唱を実験的に検証することを目的としている。そのため、明確に芳香族性を証明できる炭化水素分子であるテトラシクロペンタテトラフェニレン(TCPTPと略記)を用い、分子設計に基づく化学修飾により結晶状態において積層構造を形成させ、構造解析と分光法を駆使して三次元芳香族性を実験的検証する。 本年度は、TCPTPのトリイソプロピルシリルエチニル(TIPSと略記)誘導体が結晶内部で3量体を形成した結晶を用いて分子科学研究所の西村勝之准教授の協力のもとに固体のプロトンNMRの測定を行った。水素の帰属は炭素13NMRとの二次元相関スペクトルに基づいて決定した。その結果、TCPTP骨格の水素は4.4~5.4 ppmに複数のシグナルが重なった幅広いピークとして観測された。これは、溶液中のTIPS置換TCPTPの化学シフト(約4.1 ppm)と大きな差がないため、当初の予想とは大きく異なる結果であった。そのため、2量体結晶など異なる構造の固体NMRを測定するとともに、上記の結果が三次元芳香族性の存在を否定することになるのか、あるいはTCPTP自体がつくる誘起磁場の効果によるのかを理論的に解明する必要がある。 中性のTCPTPに関する研究と並行して、メシチル基が置換したTCPTP誘導体に関して2電子酸化状態のジカチオンの生成と構造解析も行った。その結果、結晶内で中性種、ラジカルカチオン、ジカチオンという3種の化学種が共結晶を形成しているという特異な現象を見出した。TCPTPが容易に電子授受を行うことができるためと考えられ、反芳香族性に基づく電子物性との関連から興味がもたれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
30年度は、TIPS置換TCPTPの3量体結晶状態での固体プロトンNMRスペクトルの測定とその帰属を行い、その結果を溶液中のスペクトルとの比較したところ、大きな化学シフトの変化が観測されなかった。これは、三次元芳香族性の存在を否定するかもしれない重大な結果である。したがって、さらに多くの積層構造をもつTCPTP誘導体の結晶を作成し実験的検証を深めるとともに理論的にも解明する必要がある。 TCPTPの誘導体合成のための新規合成法の開拓に関しては、採択が年度途中であったためか、相応しい特任研究員の雇用に時間を要したため進捗が遅れていた。31年2月にようやく研究員を雇用しほぼ半年遅れで開始している。 三次元芳香族性の理論的解明は、反芳香族分子TCPTPがもつ開殻性にも関係するため、その理論的取り扱いは非常に注意を要する。研究協力者の大阪大学基礎工学研究科の中野雅由教授の協力のもとに行ったモデル系における理論研究の結果、過去の理論的提唱は優れたアイデアあるものの、本質的な点で問題があることを見出している。 以上の状況から判断して、全体として、研究は順調に進捗していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
3量体結晶の固体NMR化学シフトの測定結果が、三次元芳香族性の存在を否定するものか、あるいはTCPTP分子自体が作る誘起磁場によるものかを実験的、理論的に解明する必要がある。そのため、まずTCPTPのTIPS誘導体の2量体結晶についても固体NMR測定を行う。その測定に必要な量のTCPTPのTIPS誘導体を得るため、その追加合成を行う。同時にTIPS以外のトリアルキルシリル基をもつ誘導体の合成を行い、TCPTP骨格がさらに積層した構造をもつ結晶の作製を試みる。これらの誘導体合成するにあたり、TCPTP骨格の合成効率を向上するため、新たな合成法について引き続き検討する。また、引き続き大阪大学基礎工学研究科の中野雅由教授の協力のもとに理論化学計算に基づいて、三次元芳香族性の高度な理論的解明と上記の実験結果の解釈に関して考察する。 メシチル誘導体に関してはアモルファス固体薄膜の作成と電荷輸送能の計測を行い、反芳香族性に基づくTCPTP骨格の電子授受の容易さが反映されるかどうかを検証する。
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Research Products
(4 results)