2019 Fiscal Year Annual Research Report
In vitro reconstruction of artificial blastocysts by stem cells
Project/Area Number |
18H05366
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大日向 康秀 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 客員研究員 (70415107)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 胚盤胞 / 原始内胚葉 / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来、胚盤胞からは、胚や一部の胚体外組織を派生する着床前エピブラストから胚性幹細胞(embryonic stem cell, ES細胞)、主に胎盤を派生する栄養膜から栄養膜幹細胞(trophoblast stem cell, TS細胞)が樹立されていたが、残るもう一つの要素である、主に卵黄嚢を派生する原始内胚葉からは幹細胞が樹立されていなかった。 我々は、幹細胞を用いて胚盤胞を再構成するためには、原始内胚葉の性質を捕捉した新規幹細胞が必須だと考え、その樹立を試みた。原始内胚葉に由来する細胞株としては、従来XEN細胞(extraembryonic endoderm cell)が知られている。しかし、これら細胞は胚盤胞に注入してもキメラを形成することができず、幹細胞とは見做せなかった。我々は無血清培地に増殖因子、低分子化合物を組み合わせて添加することによって、新規の細胞株を樹立できることを見出した。 PrES細胞は、培養下、安定して長期の継代が可能であり、胚盤胞へ注入すれば速やかに内因性の原始内胚葉に取り込まれた。また胚盤胞注入した胚盤胞を偽妊娠マウス子宮へ移植することによっては、卵黄嚢の内胚葉層に高効率に寄与したキメラを作製できた。更に、内因性の原始内胚葉形成を阻害した胚盤胞を宿主に用いることによっては、PrES細胞は胚の致死性を救済し、原始内胚葉系列のほぼ全ての細胞が補完されたキメラを作製することも可能であった。 本成果により、胚盤胞構成要素の全ての幹細胞が得られたことになる(論文投稿中)。 現在、研究成果の公表を急ぐと共に、ES細胞、TS細胞、PrES細胞を組み合わせることによって、人工胚盤胞を再構成する培養系の開発に取り組んでいる。また、従来、幹細胞として安定性の低かったTS細胞のより安定的な維持方法についても開発を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、胚盤胞を幹細胞で再構成することを目的としているが、その実現のためにはその構成要素の幹細胞を高い質で維持できることが必要条件となる。胚盤胞はエピブラスト、栄養膜、原始内胚葉で構成されるが、これまでにエピブラストからはES細胞、栄養膜からはTS細胞が樹立されていたものの、原始内胚葉幹細胞の報告は無かった。 我々は本年度までに、無血清培地に増殖因子と低分子化合物を組み合わせて添加することで、世界で初めて原始内胚葉幹細胞(PrES細胞)の樹立・維持に成功し、これら細胞は内因性の原始内胚葉系列を補完できる性質を保持していた。現在、これら成果については論文投稿中である。 本技術的基盤の確立によって、理論的には人工的に胚盤胞を再構成し得る条件が整ったと考えており、研究はおおむね計画通りに進捗している。 残る別の問題として、栄養膜系列の幹細胞であるTS細胞は、従来、自発分化を完全に抑えることが困難で、特に巨細胞へバイアスのかかった分化傾向を示したが、我々はTS細胞の改良も進めており、それらTS細胞を用いて、宿主の胎盤組織の殆どを幹細胞で置換したキメラの作製に成功している(投稿準備中)。更にES細胞、TS細胞、PrES細胞を組み合わせて、胚盤胞様立体組織を再構成する実験も進めており、これらについてもおおむね計画通りに進捗している。作製した胚盤胞様組織については偽妊娠マウス子宮へ移植することで発生能を評価する計画であるが、その研究実施体制についても本年度までに確立することができた。現在、人工胚盤胞移植のための予備実験を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
PrES細胞の樹立に成功したことから、今後は胚盤胞様立体構造を如何にして作製し、胚発生能を持たせるかが研究の主な目的となる。また、TS細胞の未分化性をより安定的に維持する培養条件の同定等も、目的を実現するために解決するべき課題である。 今後は、1) 基礎培地、増殖因子、血清代替試薬、低分子化合物等の組み合わせを検討することでTS細胞の幹細胞性を改善する研究を行う、2) ES細胞、TS細胞、PrES細胞を組み合わせ、培地、オルガノイド作製培養容器の使用等について検討することで、胚盤胞様立体組織を作製する技術を確立する、3) 作製した胚盤胞様組織は偽妊娠マウス子宮へ移植することで発生能を評価する、4) 従来、生体内の胚盤胞を構成する細胞数が極めて少ないことから解析が困難であった細胞間相互作用について、試験管内で幹細胞を用いて解析し、胚盤胞期における主要シグナリングモデルを予測する、5) 試験管内での幹細胞を用いた解析で明らかになったシグナリングモデルについて、胚盤胞を用い、CRISPR/Cas9等によるゲノム編集を行うことで摂動を加え、生体内での機能を証明する、等の研究を行う、6)各幹細胞の性質を規定している転写因子の組み合わせを同定し、それらを人為的に制御することにより、栄養膜、着床前エピブラスト、原始内胚葉系譜間の分化転換技術を確立する。
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