2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K20375
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大日向 康秀 千葉大学, 大学院医学研究院, 講師 (70415107)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 原始内胚葉幹細胞 / 人工胚 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の生命はたった一つの受精卵から発生する。受精卵は卵割を繰り返し、やがて胚盤胞と呼ばれる初期胚を形成する。胚盤胞は、エピブラスト、栄養膜、原始内胚葉の3つの細胞系譜からなる数10個の細胞の集団であるが、エピブラストからは主に胚が、栄養膜と原始内胚葉からは、それぞれ胎盤と卵黄嚢の主要部分が派生する。これまでにエピブラストからは胚性幹細胞(embryonic stem cell, ES細胞)が、栄養膜からは栄養膜幹細胞(trophoblast stem cell, TS細胞)が樹立されていたが、残る原始内胚葉の十分な未分化性を保持する幹細胞は報告は無かった。今回、我々は原始内胚葉幹細胞(primitive endoderm stem cell, PrES細胞)の樹立に成功した。PrES細胞はE4.5胚の形成直後の原始内胚葉の特徴を保持し、胚盤胞に注入すれば、速やかに胚の原始内胚葉に取り込まれ、高効率に卵黄嚢キメラを形成した。更に、原始内胚葉を喪失させた胚を宿主として用いれば、全ての原始内胚葉系列細胞をPrES細胞で補完し、正常な産仔を得ることが可能だった。 我々は更に、試験管内で、ES細胞、TS細胞、PrES細胞を組み合わせ、胚様構造を作製し、偽妊娠マウス子宮への移植を行い、これらが高効率に着床し、卵黄嚢に囲まれた胚様構造を形成することを示した(Ohinata et al, Science 375, 574-578 (2022))。 本研究によって、胚盤胞を構成する3種類の細胞系譜の幹細胞が揃ったこととなり、数10個の細胞の集団から我々の生命が発生する仕組みを、幹細胞間相互作用の問題として捉え、理解する研究が進展すると予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初の計画通り、原始内胚葉幹細胞(PrESCs)の樹立に成功した。これにより胚盤胞を構成する全ての細胞の幹細胞が揃ったこととなり、理論的にはこれ幹細胞を組み合わせることで、人工的に胚を再構成し得る必要条件が整ったと言える。更に我々は、実際に、試験管内で既存のESCs、TSCsと組み合わせることで、人工胚様構造を作製することにも成功した。試験管内で作製した胚様構造は偽妊娠マウス子宮への移植によっては、高効率に着床し、臓側卵黄嚢、及び壁側卵黄嚢様構造に囲まれた胚様の受胎産物を派生させることができた。従来報告されていた、試験管内でESCs、TSCsから作製した胚様構造は、着床能は保持するものの、幹細胞由来組織は生着せず、受胎産物を派生させることはできなかった。 本研究において、ESCs、TSCs、PrESCsを混合し、底面に多数のマイクロウェルを施した特殊な培養ディッシュ内で高効率に初期胚オルガノイドを作製する技術が確立し、今後はより精密な胚様構造の再構築に向けて、組織的かつハイスループットな条件の探索が可能となった。また、ESCs、TSCs、PrESCsをそれぞれ、オレンジ、緑、赤-赤外の蛍光タンパク質で標識し、非侵襲的にリアルタイムでそれぞれの細胞の配置を解析することを可能とした。また、今後、人工胚作出に向けて解決するべき複数の問題点を明らかにすることができた。今後は、明らかとなった問題点を解決することで、より精密に胚盤胞様の構造と機能を再構築することが可能となると予想される。 本年度までに研究計画の殆どについて目標を達成することが出来たが、試験管内で正常な発生能を保持する人工胚を再構成することは実現できなかったため、研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
ESCs、TSCs、PrESCsの全てを用いることによっては、試験管内で胚様構造を作製し、偽妊娠マウス子宮の移植によっては、卵黄嚢様構造を伴う受胎産物を派生させることができたが、正常な胚を形成することには失敗した。原因としては、1.それぞれの幹細胞の性質が胚組織の機能を補完するのに不十分であったこと、2.それぞれの幹細胞を胚盤胞様に三次元的に配置する技術が不十分だったこと、が考えられる。1.については特にTSCsの幹細胞性が、胚の栄養膜を補完するに不十分なことが示唆されたため、今後はTSCsの培養条件、キメラ寄与能を改善する方法等について研究を行う。2.については、胚盤胞は着床前エピブラストを原始内胚葉が取り囲み、更にそれを栄養膜シストが取り囲んだ構造をしているが、本研究における胚様構造作製の際には、エピブラストの幹細胞であるESCsを原始内胚葉の幹細胞であるPrESCsが取り囲むのは良いが、TSCsがPrESCsのシート内部に浸潤し、ESCsと直接相互作用することが問題となった。本研究によって、試験管内で胚様構造作製条件を、組織的かつハイスループットに探索することが可能となったため、今後は、ESCs-PrESCs構造をTSCsシストで取り囲む構造を誘導する条件を同定する。また、3つの幹細胞を異なる蛍光タンパク質で標識し、非侵襲的に時系列で幹細胞の配置を解析することも可能となったため、これら材料、技術を駆使し、幹細胞のみを用いて、より精密に胚盤胞を模倣する技術を開発する。また試験管内で作製した胚盤胞様構造については、偽妊娠マウス子宮に移植を行い、胚発生能を評価する。正常な胚発生能を保持する人工胚盤胞の作製を目指す。
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[Journal Article] Establishment of mouse stem cells that can recapitulate the developmental potential of primitive endoderm2022
Author(s)
Yasuhide Ohinata, Takaho A Endo, Hiroki Sugishita, Takashi Watanabe, Yusuke Iizuka, Yurie Kawamoto, Atsunori Saraya, Mami Kumon, Yoko Koseki, Takashi Kondo, Osamu Ohara, Haruhiko Koseki
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Journal Title
Science
Volume: 375
Pages: 574-578
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Variant PCGF1-PRC1 links PRC2 recruitment with differentiation-associated transcriptional inactivation at target genes2021
Author(s)
Hiroki Sugishita, Takashi Kondo, Shinsuke Ito, Manabu Nakayama, Nayuta Yakushiji-Kaminatsui, Eiryo Kawakami, Yoko Koseki, Yasuhide Ohinata, Jafar Sharif, Mio Harachi, Neil P Blackledge, Robert J Klose, Haruhiko Koseki
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 12
Pages: 5341
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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