2019 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト小腸オルガノイド由来吸収上皮細胞の作製と創薬研究への応用
Project/Area Number |
18H05373
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水口 裕之 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (50311387)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仲瀬 裕志 札幌医科大学, 医学部, 教授 (60362498)
|
Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
Keywords | ヒト小腸オルガノイド / ヒト小腸吸収上皮細胞 / 分化 / 創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
小腸吸収上皮細胞は、様々な薬物代謝酵素や薬物トランスポーターを発現しているため、経口投与された薬物の吸収や排泄・代謝において重要な役割を担う。これまで、創薬研究において、医薬品候補化合物の小腸での吸収を評価するためのin vitro評価系としては、ヒト大腸癌細胞株であるCaco-2細胞を用いた系が汎用されてきた。しかしながら、Caco-2細胞はヒト小腸吸収上皮細胞に比べ、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの発現量が著しく低く、“吸収・排泄・代謝”を同時に評価できないという欠点を有していた。そこで本研究では、近年確立されたヒト腸オルガノイド培養技術を用いて、ヒト小腸オルガノイドから吸収上皮細胞への分化誘導技術の開発と、“吸収・代謝・排泄”を同時に評価できる新規in vitro評価系の開発を進める。これまでの2年間(H31年度~R1年度)で、以下の成果を得た。 分担研究者の札幌医科大学仲瀬裕志教授と協力し、ヒト十二指腸生検サンプルより小腸オルガノイドを樹立した。このオルガノイドをトリプシン処理することによって得たシングルセルを、Matrigelコーティングしたトランズウェル上へ播種し、単層膜を得た。膜抵抗値等を測定したところ十分なバリア形成能力を有していることを確認した。この単層膜について、小腸関連分子や遺伝子の免疫染色、qRT-PCR、薬物代謝酵素の活性測定等を実施し、Caco-2単層膜やヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞との比較を行い、オルガノイド由来単層膜が、in vitro薬物動態評価系へ応用できる可能性が高いことを実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分担研究者の札幌医科大学仲瀬裕志教授と協力し、ヒト十二指腸生検サンプルより小腸オルガノイドを樹立した。このオルガノイドをトリプシン処理することによって得たシングルセルを、Matrigelコーティングしたトランズウェル上へ播種し、単層膜を得た。この単層膜について、小腸関連分子や遺伝子の経上皮電気抵抗(TEER)測定、qRT-PCR、免疫染色、薬物代謝酵素活性の測定等を実施し、Caco-2単層膜との比較を行った。一部の試験については、ヒトiPS細胞から分化誘導した小腸上皮細胞との比較も実施した。 作製したオルガノイド由来単層膜はCaco-2細胞と同様、強固な単層膜を形成していた。qRT-PCRの結果、オルガノイド由来単層膜における主要な薬物代謝酵素・トランスポーター(CYP3A4やP-glycoprotein(P-gp)等)の遺伝子発現レベルはCaco-2細胞と比較して100~4000倍高かった。免疫染色の結果、オルガノイド由来単層膜の頂端膜側におけるVillinタンパク質、細胞膜におけるP-gpタンパク質、細胞質におけるCYP3A4の発現が確認された。薬物代謝酵素の活性測定の結果、CYP3A4とcarboxylesterase 2(CES2)においてオルガノイド由来単層膜の方がCaco-2細胞より極めて高い活性を示した。さらに、オルガノイド由来単層膜のCYP3A4活性をヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞と比較したところ、10倍以上の高い活性を示した。以上より、オルガノイド由来単層膜は極性を有しており、Caco-2細胞やヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞と比較して薬物代謝酵素・トランスポーターを高発現しているため、in vitro薬物動態評価系へ応用できる可能性が高いと考えられた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜の機能を、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞と比較しながら詳細に検討する。具体的には以下について検討する。 (1)申請者らはヒトiPS細胞から腸管上皮細胞を分化誘導する技術を開発済みである。しかし本系は、オルガノイドを介さず、直接腸管上皮細胞を分化誘導する方法であり、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜と機能比較するにあたりベストではない。そこでまず、ヒトiPS細胞から腸管オルガノイドを作製し、これを単層膜化することで腸管上皮細胞を作製する方法を確立する。オルガノイドを介して、あるいはオルガノイドを介さず直接分化誘導して作製したヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞の機能を、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜と比較検討し、どちらの系がより創薬研究に適しているかについての検討を行う。機能評価の項目としては、小腸関連遺伝子の発現レベルや、バリアー機能(経細胞輸送能の評価)、CYP3A4の代謝活性、CYP3A4の酵素誘導能、P-gpやBCRP、PEPT1のトランスポーター活性等を検討する。さらに、複数人由来の十二指腸生検サンプルや大腸からオルガノイド由来単層膜を作製し、その機能を比較することで、個人別あるいは腸管の部位別の機能の違いが認められるかどうかについて検討する。 (2)小腸アベイラビリティ(Fg)は小腸上皮細胞での代謝と小腸上皮細胞の膜透過性の両パラメーターの影響を受けるが、現状ではこれを評価するin vitroモデルは存在しない。そこで、CYP3A4で代謝を受ける薬物をモデルに、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜でのFg値の算出を行い、文献値でのin vivoでのFg値との比較を行う。これにより、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜が小腸アベイラビリティを評価できる初めてのin vitroモデルになるか否かについて検討する。
|
Research Products
(9 results)