2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒト小腸オルガノイド由来吸収上皮細胞の作製と創薬研究への応用
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20K20381
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
水口 裕之 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (50311387)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヒト小腸オルガノイド / ヒト小腸吸収上皮細胞 / 分化 / 創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
小腸吸収上皮細胞は、様々な薬物代謝酵素や薬物トランスポーターを発現しているため、経口投与された薬物の吸収や排泄・代謝において重要な役割を担う。これまで、創薬研究において、医薬品候補化合物の小腸での吸収を評価するためのin vitro評価系としては、ヒト大腸癌細胞株であるCaco-2細胞を用いた系が汎用されてきた。しかしながら、Caco-2細胞はヒト小腸吸収上皮細胞に比べ、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの発現量が著しく低く、“吸収・排泄・代謝”を同時に評価できないという欠点を有していた。そこで本研究では、近年確立されたヒト腸オルガノイド培養技術を用いて、ヒト小腸オルガノイドから吸収上皮細胞への分化誘導技術の開発と、“吸収・代謝・排泄”を同時に評価できる新規in vitro評価系の開発を進める。これまでの3年間(H31年度~R2年度)で、以下の成果を得た。 ヒト十二指腸生検サンプルより樹立した小腸オルガノイドをシングルセルにし、トランズウェル上へ播種することで単層膜を得た。この単層膜について、バリアー機能(経細胞輸送能の評価)、小腸関連分子や遺伝子の免疫染色や遺伝子発現レベル、薬物代謝酵素(CYP3A4等)の活性測定や誘導能、トランスポーター活性等を実施し、Caco-2単層膜やヒトiPS細胞由来小腸上皮細胞との比較を行い、オルガノイド由来単層膜が、in vitro薬物動態評価系へ応用できる可能性が高いことを実証した。さらに、同一個人から樹立したヒト十二指腸生検由来オルガノイド単層膜と、ヒトiPS細胞由来小腸オルガノイド単層膜との機能比較を行った。また、ヒト腸管オルガノイドを薬物動態試験に応用することを目指し、その培養条件(主に培地)を詳細に検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R2年度は新型コロナウイルス感染症による2度の緊急事態宣言の影響を受けて、研究がやや遅延した。研究進展については以下の通りである。 ヒト十二指腸生検サンプルより樹立した小腸オルガノイドをトリプシン処理することによって得たシングルセルを、Matrigelコーティングしたトランズウェル上へ播種し、単層膜を得た。組織学的観察の結果、作製したオルガノイド単層膜は極性とバリア機能を有した吸収上皮細胞からなる単層膜であることが明らかとなった。qRT-PCRの結果、オルガノイド単層膜はCaco-2細胞と比較して10~4800倍高い各種薬物代謝酵素等の遺伝子発現を示した。特にオルガノイド単層膜におけるCYP3A4の遺伝子発現レベルはヒト成人十二指腸と同程度であり、生体に近い遺伝子発現プロファイルを示すことが明らかとなった。また、各種活性測定の結果、非常に高いCYP3A4、CES2等の酵素活性、およびMDR-1(P-gp)の輸送活性を有することが分かった。これらのことから、オルガノイド単層膜は従来系と比較して薬物動態学的な応用に適していると考えられた。さらに、同一個人から樹立したヒト十二指腸生検由来オルガノイド単層膜と、ヒトiPS細胞由来小腸オルガノイド単層膜との機能比較を行ったところ、異なる作製法で作製された腸管オルガノイドは遺伝的背景が揃っていても異なった性状を示すことが明らかとなった。また、3種類の主要な培養法を用いて培養したヒト腸管オルガノイドの性質を調べたところ、培養方法により遺伝子発現プロファイルは異なっており、ヒト腸管オルガノイドを用いた創薬研究を行う際には、具体的な用途に応じて最適な培養方法を選択することが必要であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト小腸由来オルガノイド単層膜の機能を、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞等と比較しながら詳細に検討する。具体的には以下について検討する。 (1)申請者らはヒトiPS細胞から直接、腸管上皮細胞を分化誘導する技術を開発済みである。また、ヒトiPS細胞から腸管オルガノイドを作製し、これを単層膜化する方法もR2年度に確立した。そこで、オルガノイドを介して、あるいはオルガノイドを介さず直接分化誘導して作製したヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞の機能を、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜と比較検討し、どちらの系がより創薬研究に適しているかについての検討を行う。 (2)R2年度まではヒト十二指腸由来オルガノイドを用いて実験を実施した。一方で、薬物吸収・代謝には、十二指腸と並んで空腸も重要であると考えられるため、ヒト空腸由来オルガノイドを用いた実験を実施する。さらに、複数人由来の十二指腸や空腸生検サンプルや大腸からオルガノイド由来単層膜を作製し、その機能を比較することで、個人別あるいは腸管の部位別の機能の違いが認められるかどうかについて検討する。 (3)小腸アベイラビリティ(Fg)は小腸上皮細胞での代謝と小腸上皮細胞の膜透過性の両パラメーターの影響を受けるが、現状ではこれを評価するin vitroモデルは存在しない。そこで、CYP3A4で代謝を受ける薬物をモデルに、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜でのFg値の算出を行い、文献値でのin vivoでのFg値との比較を行う。これにより、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜が小腸アベイラビリティを評価できる初めてのin vitroモデルになるか否かについて検討する。
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Causes of Carryover |
R2年度は新型コロナウイルス感染症による2度の緊急事態宣言の影響を受けて、研究実施停止期間があったため、やや遅延した。R3年度は以下について実施する。 (1)オルガノイドを介して、あるいはオルガノイドを介さず直接分化誘導して作製したヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞の機能を、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜と比較検討し、どちらの系がより創薬研究に適しているかについての検討を行う。(2)R2年度まではヒト十二指腸由来オルガノイドを用いて実験を実施した。一方で、薬物吸収・代謝には、十二指腸と並んで空腸も重要であると考えられるため、ヒト空腸由来オルガノイドを用いた実験を実施する。さらに、複数人由来の十二指腸や空腸生検サンプルや大腸からオルガノイド由来単層膜を作製し、その機能を比較することで、個人別あるいは腸管の部位別の機能の違いが認められるかどうかについて検討する。(3)CYP3A4で代謝を受ける薬物をモデルに、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜でのFg値の算出を行い、文献値でのin vivoでのFg値との比較を行う。これにより、ヒト十二指腸由来オルガノイド単層膜が小腸アベイラビリティを評価できる初めてのin vitroモデルになるか否かについて検討する。
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Research Products
(10 results)