2019 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of epigenetic regulation of erythropoiesis to develop novel therapeutic strategy
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18H05374
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
五十嵐 和彦 東北大学, 医学系研究科, 教授 (00250738)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張替 秀郎 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50302146)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 造血幹細胞 / 老化 / 転写因子 / 遺伝子発現 / 骨髄異形成症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
SAM (S-アデノシルメチオニン) はメチオニン回路にて合成され、核酸やタンパク質等のメチル化反応で主なメチル基供与体として機能する。しかし、細胞増殖・分化時のSAM量の変動には不明な点が多い。申請者らは、SAMの量的変動が細胞応答を引き起こす可能性を考え、マウスでメチオニン回路阻害剤投与実験を行い、同回路の操作が、エリスロポエチン非依存性の赤血球造血を促進するという驚くべき新規知見を得た。本知見に基づき、エピジェネティック機構による赤血球造血調節機構の解明を本研究の主目的とする。また赤血球造血におけるSAMとメチオニン回路の機能の解明を副目的とする。 2019年度は、以下の項目について研究を進め赤血球分化におけるエピジェネティク機構について重要な成果を得ることができた。 1) 赤芽球の網羅的エピジェネティック修飾変動解析;前年度から継続してクロマチン構造、DNAメチル化、ヒストン修飾の網羅的測定、およびトランスクリプトームの網羅的測定を実施し、その統合解析を進めた。さらに、興味深い変化については、個別遺伝子・ゲノム領域について検証実験を行った。得られた結果から、赤血球分化における重要なエピジェネティク修飾変化を同定できつつある。 2) 赤芽球造血促進をもたらすタンパク質同定; タンパク質レベルで赤血球造血をもたらす因子を同定することを目指して、骨髄および赤芽球のプロテオームを質量分析で測定したので、その結果をトランスリプトームの結果と統合解析を行い、転写後制御を受けると考えられる興味深い因子等を特定した。 3) 赤血球造血促進機構の解明; 上記のデータの統合解析で、エリスロポエチン経路とは独立して機能すると考えられる「赤血球造血促進機構」についてモデルを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者らは既にマウスへのメチオニン回路阻害剤の投与が骨髄赤芽球第II分画 (好塩基性赤芽球) のSAM濃度を低下させ、本分画からの赤血球造血が著明に促進することについて、様々な条件下で再現実験を行うことにも成功していたが、そのエピジェネティク機構が解明されつつあり、当初掲げた目標を着実に達成しつつある。また、当該分画の網羅的トランスクリプトーム解析で広範な遺伝子発現変動が惹起されている事も確認した。このような知見はこれまで知られていないエピジェネティクス機構と赤血球分化の関係を強く示唆する。本年度の実験から、概要に述べたように以下の成果を得ており、特に、この赤血球分化制御系はエリスロポエチンとは独立して作用することを強く示唆する実験結果も得ており、斬新な造血制御機構を提唱できると期待している。既にDNAのメチル化変動をWGBS (whole genome bisulfite sequence) で、ヒストンのメチル化変動をヒストン修飾抗体のChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequence) で解析し、得られたデータを統合的に解析することで、ヒストンメチル化とDNAメチル化の関係について、これまで提唱されていない関係を見いだすことができている。これが赤血球に特有なものか、他系統細胞でも成立する関係なのかは慎重に検討していく必要があるが、階層的に生じるメチル化変化が赤血球分化促進の原因となっている可能性があり、次年度にさらに検証したい。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り進める。具体的には以下の通り。また、論文投稿を開始しているのでその採択を目指して改訂実験も並行して進める。 赤芽球にはSAM濃度低下を維持しシグナルに変換する機構が備わっていると考えられた。しかし、赤血球造血が促進される具体的な機序や赤血球造血でのSAMの役割、メチオニン回路酵素の機能、そして補正機構阻害の仕組みはまだ不明であり、この解明に向けた研究も進めてきた。この点も踏まえ、次年度は下記の研究を進める。 1) 赤芽球の網羅的エピジェネティック修飾変動解析;これまでの研究で、メチオニン回路酵素阻害剤投与マウスおよび対照マウスより赤芽球をソートし、各サンプルを用いてDNAのメチル化変動をWGBS (whole genome bisulfite sequence) で、ヒストンのメチル化変動をヒストン修飾抗体のChIP-seq (chromatin immunoprecipitation sequence) で測定し、一連のデータを統合解析し、メチオニン回路酵素阻害により生じるエピゲノム変動部位をリスト化している。この変動部位近傍に存在する遺伝子群の機能をオントロジー解析も進めているので、赤血球分化に関わることが想定されるものについて、機能解析を進める。 2)SAM合成酵素mRNAの3’非翻訳領域(UTR)にはSAM濃度に応答してメチル化され、同mRNA半減期を短縮させる機構が存在することを既に報告している。赤芽球ではこの制御が作動しないことでSAM量低下をシグナルに転換すると予想される。この制御系に関わる候補因子を同定しているので、赤芽球でこれら候補因子が機能しない理由に関する研究をさらに進める。
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