2019 Fiscal Year Annual Research Report
主体的多感覚統合による知覚・認知過程の新しい枠組みの構築
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19H05493
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
乾 敏郎 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (30107015)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 健二 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (50586021)
笹岡 貴史 広島大学, 脳・こころ・感性科学研究センター, 准教授 (60367456)
朝倉 暢彦 大阪大学, 数理・データ科学教育研究センター, 特任准教授(常勤) (70308584)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 外受容感覚 / 内受容感覚 / 異種感覚情報の統合 / コミュニケーション機能 / 自由エネルギー原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
内受容感覚の自己評価の高い人は心拍追跡課題の確信度が有意に高く、模倣抑制課題の平均反応時間が有意に長かった。一方、身体感覚と感情状態との関連性への気づき得点の低群の方が模倣課題の反応時間が有意に長かった。また認知的共感、情動的共感と痛みや不快な感覚を伴う精神的苦痛を心配または経験しない傾向得点、情動的共感と自己制御得点の間で有意な相関が見られた。さらに心拍追跡精度の高い人ほど他者のNeutral 表情を不快な表情として捉えており、Angry表情の変化をより強く感じることが示された。また観察者の性別にかかわらず,同性の他者では他者が表出する感情価に対応した生理変化がみられた一方で,異性の他者ではそのような傾向はみられなかった。次に心拍追跡課題の脳活動を検討した。その結果、内受容注意に伴って島皮質でも前中部に位置する中短島回が最も高い活動値を示した。内受容正確性スコアと相関した内受容注意に関わる活動部位は,右背側島皮質/前頭弁蓋に認められた。さらにニューロフィードバックトレーニングを行った結果、フィードバックの視覚的情報により,内受容注意に伴う島皮質の活動が阻害された可能性が認められた。また一部の参加者はトレーニングによって心拍追跡課題の成績が大幅に向上した。 またわれわれは吃音者におけるより遅延聴覚フィードバックの強い順応効果を見いだしており、その原因として聴覚フィードバックの予測精度の悪さが示唆されている。そこで、因果推定を取り入れた遅延聴覚フィードバック順応のベイズモデルを構築しわれわれの実験条件に適用したところ、感覚フィードバックの遅れ時間の予測精度の悪さのパラメータの値が大きくなるほど、遅延なく呈示された音声が自己の発話運動から生成されたと推定される事後確率(自己主体感の測度)が小さくなり、遅延音声に対して強い順応が生じることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトは4つのグループで進めているが、いずれも当初の計画を忠実に進めており一定の成果も得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度に実施したニューロフィードバック実験では、心拍追跡課題とフィードバックの視覚提示が同時に行われていたため、ニューロフィードバックの提示が心拍への注意を妨げていた可能性が考えられる。そこで心拍追跡課題とフィードバック提示を時間的に分離することで、効果的なフィードバック提示による島皮質の活動増加が実現可能かを試みる。また、ニューロフィードバックではなく実際の心拍を聴覚刺激にてフィードバックする実験を実施する。その際、自分の実際の心拍をフィードバックする、変調した心拍をフィードバックする、あるいは他人の心拍をフィードバックする等の操作を加え、その際の実際の心拍変化および主観報告等を調査する。また2019年度は,予備実験によって顔表情のイメージ保持,顔表情のイメージ変換時において外受容感覚と内受容感覚の相互作用が存在する可能性を見いだした.2020年度は本実験に移り,顔表情に関するイメージの変容の個人差と内受容感覚の感度との関係,および顔表情変化の予測精度の個人差と内受容感覚の感度の間の関係を明らかにすることを試みる.さらに,課題中のfMRI計測を行うことで,その脳内メカニズムを明らかにする.また2019年度に提案した遅延フィードバック課題における時間判断と順応過程に関するベイズモデルを,吃音者・非吃音者における遅延聴覚フィードバック順応実験の結果に当てはめ,その妥当性を検証する.また,同モデルを視覚運動変換課題に対して最定式化し,統合失調症患者における自己主体感と視覚運動順応を検討する.さらに,異種感覚統合の障害を感覚情報の不確定性を考慮しないオブザーバモデルにより定式化し,その妥当性を検討する.さらに2019年度に得られた外受容感覚、内受容感覚の統合過程に関するデータをFristonの自由エネルギー原理に基づき、計算理論のみならず神経科学的モデル構築を目指す。
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Remarks |
講演 ①乾敏郎 (2019) 知覚から思考までの基本機構を明らかにする自由エネルギー原理. 国立生理学研究所シンポジウム2019認知神経科学の先端「脳の理論から身体・世界へ」. ②乾敏郎 (2019) 自由エネルギーの観点からの精神疾患. 日本オミックス医学会シンポジウム「AI医療・AI創薬 精神疾患への挑戦」.
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