2020 Fiscal Year Research-status Report
主体的多感覚統合による知覚・認知過程の新しい枠組みの構築
Project/Area Number |
20K20423
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
乾 敏郎 追手門学院大学, 心理学部, 教授 (30107015)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 健二 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (50586021)
笹岡 貴史 広島大学, 脳・こころ・感性科学研究センター, 准教授 (60367456)
朝倉 暢彦 大阪大学, 数理・データ科学教育研究センター, 特任准教授(常勤) (70308584)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 外受容感覚 / 内受容感覚 / 異種感覚情報の統合 / コミュニケーション機能 / 自由エネルギー原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの神経科学的・発達科学的知見を基礎に、内受容感覚と外受容感覚の統合メカニズムのモデル化を行った。心拍知覚実験中の右前島の活性化と内受容感覚の正確さとが正に相関しており、内受容感覚の高い人は内受容感覚の経験事前確率の更新を絶えず行っており、内受容の気づきの高い特性を持ち、生理学的覚醒の変化に対してもより強い感情的覚醒を報告するのではないかと考えられる。この仮説をアイオワギャンブル課題と顔表情から他者感情を推定する実験で確認した。さらに顔表情についてイメージ保持、および変換課題を実施し、内受容感覚の個人差指標との関連を調べた。結果、イメージ変換課題において内受容感覚の感度が低い個人ほど幸福表情を強く、悲哀表情を弱い方向に回答した。これは、内受容感覚の感度が高いほど顔表情変化の予測精度が高いことを意味しており、顔表情のイメージ変換時に用いられる内受容と外受容感覚情報の重みの個人差を反映していると考えられる。 生体信号のフィードバック(FB)情報は,他の外的刺激と異なった方法で脳内処理されている可能性がある。本実験では心拍聴覚FBとその真偽判断により生じる生理的変化・主観的経験が個人の内受容感覚とどのように関連するかについて検討した。FBの条件は自己心拍,自己心拍加速,他者心拍の三条件(被験者内計画)とし,内受容感覚の個人差は心拍追跡課題により測定した。その結果内受容正確性が高い個人ほど,自己心拍FBを自己由来と正しく判断しやすかった。また安静時の心拍変動が大きい個人ほど内受容正確性に自信を持ちにくいことが示唆された。遅延聴覚FBにおける時間差順応と時間順序判断に関するベイズモデルを構築し吃音者・非吃音者における遅延聴覚FB順応実験の結果を説明できることを確認した。他の実験結果も踏まえると、吃音者における運動感覚協応の障害が主に時間順序の表現レベルで生じていることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトは4つのグループで進めているが、いずれも当初の計画を忠実に進めており一定の成果も得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
顔表情イメージ保持・変換課題において、内受容感覚の個人差が課題に影響を及ぼすことが示されたが、本年度はそのメカニズムについて、個人差と関連する脳構造をVBM解析によって明らかにする。さらに、内受容感覚の感度と相関する脳領域と比較することで、感情認知における外受容・ 内受容感覚の統合メカニズムを検討する。また、生理計測を併せて実施し、生理反応と内受容感覚の個人差の関係を検討する。さらに、内受容感覚に関する上行性信号の精度を高める神経基盤について検討する。具体的には島皮質に焦点を当て、内受容感覚に注意を向ける課題に経頭蓋直流電気刺激とfMRIを組み合わせた実験を行う。また自由エネルギー原理(FEP)の下では、内受容感覚の精度を適切に減衰させることが重要である。そこでその減衰メカニズムを明らかにするための実験を行い、内受容感覚の正確性や感度がこの減衰のしやすさと関連するかを検討する。 理論面においては、これまでに得られたデータからFEPに基づき、外受容・内受容感覚の統合過程に関する神経科学的モデル構築を目指す。またFEPに従うと、内受容感覚に関して上行性信号の精度を高めると逆に下行性の能動的推論の精度が悪くなることが予想されることから内受容感覚の正確さや感度に関する個人差について検討を加える。また主体性とは何か、異種感覚情報の統合における運動の役割等を中心にモデル化を進める。具体的にはこれまでに定式化した因果推定を取り入れた遅延聴覚フィードバック順応のベイズモデルに基づき、自己主体感の強度と主観的時間感覚の精度の関係およびその個人差について理論的検討を行う。さらに視覚運動変換課題に対して再定式化し、固有感覚と視覚フィードバックとのずれに因果推定を取り入れた視覚運動順応のベイズモデルを構築する。
|
Causes of Carryover |
発表を行った日本心理学会のみならず他の学会でもコロナの影響でWeb 開催となり、さらに年に2度予定していた本プロジェクトの全体会議もWeb開催となったため、旅費・宿泊費などの予定されていた経費が使用されなかった。また当初計画していた行動実験や MRI の実験も中止、または縮小せざるを得なくなり、参加者謝金の経費も大幅に削減されることとなった。今年度も秋頃までは学会等Web開催になることが予想されるが、今年度は最終年度のため、データ整理や資料収集、資料作成などのための人件費・謝金等にその分を充てたい。
|
Remarks |
講演 朝倉 暢彦 (2020) データサイエンスと意思決定. 機械学習・データ科学 金沢ミニキャンプ(2020.10.30 金沢) 朝倉 暢彦 (2020) データサイエンスリテラシー. データサイエンス・セキュリティ入門講座ミニキャンプ(2020.12.20 広島)
|