2019 Fiscal Year Annual Research Report
Non-intrusive measurement of intercellular ions distribution by total internal reflection mapping method between vibration modes and hydrogen bonding of water molecules
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19H05505
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 洋平 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00344127)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法 / 全反射ラマン分光法 / 水分子挙動 / 水素結合状態 / 振動モード状態 / イオン挙動 / 細胞内イオン濃度分布 / 細胞遊走 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分子動力学シミュレーションでさえも不可能であった、イオン介在による水分子の振動モード状態および水素結合状態を、潜在的に困難と思われてきた全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発により可視化を行い、空間分布の解明を試みる。そして、細胞内液に適用し、細胞内イオン濃度の空間分布計測を初めて実験的に実現することを目的としている。本研究から得られる重要な知見は、国内外において死亡率が高い癌の転移メカニズム解明に多大な貢献をもたらすと考えられる。何故なら、癌転移は癌細胞の遊走に起因しているが、この細胞遊走は細胞の浸透圧変化によって誘発されることが近年明らかとなってきた(Stroka et al., Cell, 2014)。細胞の浸透圧は、細胞内外のイオン濃度分布により決定されるが、現在まで蛍光プローブを用いずに、細胞内液の複数種のイオン(K+,Na+,Mg2+,Ca2+, Cl-等)濃度分布の同時計測は不可能であった。目的を達成するために、下記のように段階的に研究を進めていく。 [1]体積照射ラマン分光法、および全反射ラマン分光法による、複数種イオンが混在する電解質溶液中の、ラマン不活性なイオン濃度計測法を開発し、水分子の振動モード状態および水素結合状態の解明を行う。 [2]多波長ラマン散乱光イメージング法の開発を行い、イオンの濃度および温度の同時計測による、電解質溶液中のイオン挙動の解明を行う。 [3]全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発を行い、界面極近傍におけるイオンの濃度および温度の同時計測による、親水性・疎水性表面がイオン挙動に及ぼす影響を解明する。 [4]全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法により、細胞内液のイオン濃度分布の計測を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、上述の[1]に焦点を当て、研究を行った。以下に得られた研究成果を述べる。 (1)体積照射ラマン分光法、および全反射ラマン分光法を用いて、複数種イオンが混在する電解質溶液中の、ラマン不活性な金属イオン(K+,Na+,Mg2+,Ca2+)および塩化物イオン(Cl-)濃度の計測を実現した。電解質溶液中の水分子は、イオンが混在することにより、振動モード状態および水素結合状態が変化するが、本研究では、水素結合の5つの状態変化と変化量のマッピング法を開発し、ラマン不活性なイオン濃度計測を可能とした。但し、一連の実験では、細胞内液に含まれるイオン濃度よりも、はるかに大きい濃度に設定をし、レーザ強度、カメラの露光時間等のパラメータの最適化を行うための、基礎データの収集も併せて行った。 (2)上述より得られた結果に、主成分分析、非線形回帰分析や多変量曲線分解を施し、水分子に影響を及ぼすイオンの特性を、定量的に明らかにした。更に、イオン周囲の水和殻スペクトルの抽出を行い、スペクトル分布がイオンによって異なり、更に、スペクトル強度が濃度と線形な関係となることが明らかとなった。これにより、イオンが水分子挙動に及ぼす影響を、定量的に把握することが可能となった。 (3)電解質溶液濃度を、細胞内液とほぼ同様な濃度に設定し、上述の(1)および(2)と同様な実験を行い、計測方法および解析方法の、有効性を検証した。全反射ラマン分光法では、照射するエバネッセント波強度が微弱であり、更に、発生するラマン散乱光も微弱であることから、様々なノイズが計測結果に影響を及ぼすことが明らかとなってきた。基板として、ノイズが少ないと思われていた石英ガラスを用いているが、ラマン散乱光よりも大きなシラノール基からのノイズが発生することが、明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
体積照射ラマン分光法、および全反射ラマン分光法により、ラマン不活性なイオン濃度計測、そして、イオンが水分子挙動に及ぼす影響を解明することが可能となった。特に、複数種イオンが混在する電解質溶液に関する研究は、国内外においても行われておらず、複数種イオン介在による水分子挙動に関する定量的な把握が、初めて可能となった。今年度は、多波長ラマン散乱光イメージング法の開発も同時に行い、イオンの濃度および温度の同時計測の予備実験を行ってきた。しかし、様々なノイズが計測結果に及ぼす影響を把握し、除去あるいは低減するためには、かなりの期間を要することが判った。また、上述の(3)の、石英ガラスのシラノール基からのノイズは、エバネッセント波照射法と多波長ラマン散乱光イメージング法とを融合させる際には、大きな問題となることが判ったので、今後は、全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の細胞への適用を想定して、考えられるノイズの特定、そして除去あるいは低減を優先していく。
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