2020 Fiscal Year Research-status Report
Non-intrusive measurement of intercellular ions distribution by total internal reflection mapping method between vibration modes and hydrogen bonding of water molecules
Project/Area Number |
20K20431
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 洋平 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00344127)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法 / 全反射ラマン分光法 / 水分子挙動 / 水素結合状態 / 振動モード状態 / イオン挙動 / 細胞内イオン濃度分布 / 細胞遊走 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分子動力学シミュレーションでさえも不可能であった、イオン介在による水分子の振動モード状態および水素結合状態を、潜在的に困難と思われてきた全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発により可視化を行い、空間分布の解明を試みる。そして、細胞内液に適用し、細胞内イオン濃度の空間分布計測を初めて実験的に実現することを目的としている。本研究から得られる重要な知見は、国内外において死亡率が高い癌の転移メカニズム解明に多大な貢献をもたらすと考えられる。何故なら、癌転移は癌細胞の遊走に起因しているが、この細胞遊走は細胞の浸透圧変化によって誘発されることが近年明らかとなってきた(Stroka et al., Cell, 2014)。細胞の浸透圧は、細胞内外のイオン濃度分布により決定されるが、現在まで蛍光プローブを用いずに、細胞内液の複数種のイオン(K+,Na+,Mg2+,Ca2+, Cl-等)濃度分布の同時計測は不可能であった。目的を達成するために、下記のように段階的に研究を進めていく。 [1]体積照射ラマン分光法、および全反射ラマン分光法による、複数種イオンが混在する電解質溶液中の、ラマン不活性なイオン濃度計測法を開発し、水分子の振動モード状態および水素結合状態の解明を行う。 [2]多波長ラマン散乱光イメージング法の開発を行い、イオンの濃度および温度の同時計測による、電解質溶液中のイオン挙動の解明を行う。 [3]全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発を行い、界面極近傍におけるイオンの濃度および温度の同時計測による、親水性・疎水性表面がイオン挙動に及ぼす影響を解明する。 [4]全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法により、細胞内液のイオン濃度分布の計測を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、上述のⅡに焦点を当て、研究を行った。以下に得られた研究成果を述べる。 (1)前年度に得られた知見により、ラマンスペクトルにおいて、水分子の非水素結合、水素結合、そして、多原子イオンの特徴を顕著に表しているラマンシフト域の特定を行った。そして、特定したラマンシフト域に合致したバンドパスフィルタを装着したEM-CCDカメラ3台を、スペクトル分光器に設置し、ラマン散乱光分布を3つの波長域において撮像を可能とする、多波長ラマン散乱光イメージング法の開発を行った。このイメージング法では、水分子の非水素結合からのラマン散乱光強度分布を参照値と設定することにより、イオンの濃度分布および温度分布の同時計測が可能となったことが独創的な点である。何故なら、イオン介在による、水分子の非水素結合の変化は、イオン濃度変化と線形な関係となることが、明らかとなったからである。電解質溶液として、硫酸化ナトリウムを選定し、初めてイオン挙動を、非侵襲にて捉えることが可能となった。 (2)細胞に特化した全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発に向けて、細胞内液とほぼ同様な低濃度電解質溶液を作成し、体積照射ラマン分光法を用いて、金属イオン(K+, Ca2+)や重炭酸イオン(HCO3-)濃度の計測を可能とした。重炭酸イオン濃度の計測に関しては、低濃度であるため、計測法の妥当性を検証するために、偏向コヒレント・アンチストークス・ラマン散乱顕微法(CARS)を新たに開発し、計測時間や計測精度の比較検討を行った。複数種イオンが混在し、更に、低濃度であったとしても、体積照射ラマン分光法では、特定のイオン濃度の計測が可能であることが判った。
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Strategy for Future Research Activity |
多波長ラマン散乱光イメージング法の開発により、イオン介在による水分子の非水素結合状態、および水素結合状態の二次元分布の撮像に成功し、イオン挙動の定量的可視化が実現できた。EM-CCDカメラに装着するバンドパスフィルタの選定が、本研究の優位な点であるが、水分子の非水素結合状態、および水素結合状態を特徴的に表しているラマンシフト域は、かなり広く、合致するバンドパスフィルタの製作は容易であった。しかし、水分子の振動モードは、対称伸縮、変角、および非対称伸縮に分別され、ラマンシフト域が狭く、バンドパスフィルタの選定および製作が困難であることが判った。前年度および今年度に行ったラマン分光法による実験から、イオン介在によって、水分子の水素結合状態の方が、振動モードよりも顕著な影響を受けていることが明らかとなった。実際に、今年度、既存のバンドパスフィルタを用いて、多波長ラマン散乱光イメージング法により、3つの振動モードの定量的可視化を行ったが、二次元分布からは、特徴的な違いがなく、水素結合状態の二次元分布の方が、マッピングによる、新たな物理現象解明に有効であることが判った。そこで、全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法では、水分子の水素結合状態に特化し、細胞への適用を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
理由:新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言の発出により、約5ヵ月間、実験を充分に実施することができなかった。 使用計画:上記の期間、既に取得したラマン散乱光画像の解析を多方面から行い、様々なノイズの特定を行ってきた。特定されたノイズの除去あるいは低減を、急ピッチで進めていく予定である。具体的には、基板として用いている石英ガラスを、フッ化カルシウムに変更し、シラノール基からのノイズを除去を行う。また、細胞膜の蛋白質の自家蛍光を除去するため、緑色レーザと青色レーザを交互に照射し、全反射を可能とする多波長エバネッセント波照射システムの開発を行う。
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