2021 Fiscal Year Research-status Report
Non-intrusive measurement of intercellular ions distribution by total internal reflection mapping method between vibration modes and hydrogen bonding of water molecules
Project/Area Number |
20K20431
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 洋平 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00344127)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法 / 全反射ラマン分光法 / 水分子挙動 / 水素結合状態 / 振動モード状態 / イオン挙動 / 細胞内イオン濃度分布 / 細胞遊走 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分子動力学シミュレーションでさえも不可能であった、イオン介在による水分子の振動モード状態および水素結合状態を、潜在的に困難と思われてきた全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法の開発により可視化を行い、空間分布の解明を試みる。そして、細胞内液に適用し、細胞内イオン濃度の空間分布計測を初めて実験的に実現することを目的としている。イオン介在による水分子からの微弱なラマン散乱光には、様々なノイズが含まれており、国内外の過去の研究においては、ノイズを完全に除去し、水分子動態を精確に明らかにした例は皆無であった。本年度は、様々なノイズの要因の特定、そして除去を行い、水分子からの全反射ラマン散乱光の特徴が、体積照射ラマン散乱光と定量的に異なることを、初めて明らかにすることに成功した。具体的には、 Ⅰ.電解質溶液用のチャネルを構成する透明基板として、ノイズを極力低減したフッ化カルシウム基板を特別に製作し、また他の様々なノイズを除去することにより、水分子からの全反射ラマンスペクトルのピーク値のレッドシフトを確認した。これは、現在、市販されている計測装置では、取得が不可能であることも確認した。 Ⅱ.透明基板と電解質溶液との界面極近傍においては、水分子の水素結合状態が、バルクとは異なることが明らかとなった。即ち、水素結合が容易な状態(DA)の割合が、バルクのよりも多く、界面極近傍では、局所的にイオン濃度の偏りが生じることに起因していることが判った。これにより、ラマンスペクトルのピーク値のレッドシフトも誘起していることも明らかとなった。 Ⅲ.イオン周囲の水分子の水和数を求める解析法を開発し、バルクと界面極近傍では、水和数のイオン濃度依存性が異なることが明らかとなった。更に、全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法に適用することにより、イオン周囲の水分子の水和数分布を求めることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、国内外の過去の信頼のおける研究と同様に、イオン介在による水分子からの、微弱なラマン散乱光に含まれている様々なノイズを除去せずに、解析を行っていた。しかし、再現性を担保し、物理的に不変な解釈ができる実験結果を得ることがなかなかできず、特に、多波長ラマン散乱光イメージング法においては、撮像した画像に後処理を施すことは、本来のラマン散乱光に意図的な解釈を行う恐れがあると考えた。最終的には様々なノイズの特定にかなりの時間を費やすことを決意したため、進捗状況が遅れた。 しかし、一つひとつノイズを特定する過程において、完全に除去することも技術的に可能であることが判ってきた。特に、理想的な結晶構造を有するフッ化カルシウム基板を特別に製作することにより、界面極近傍に存在している水分子からの微弱なラマン散乱光の特徴を定量的に把握することができたことは、画期的であると考えている。現在、市販されている計測装置では取得が不可能であるばかりではなく、誤った物理的解釈を行うことを回避できたことは、実はかなりの進展であると云える。やや遠回りをしたが、イオン介在による水分子動態を精確に把握することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
イオン介在による水分子からのラマン散乱光に含まれている、様々なノイズの特定、そして除去が可能となり、水分子動態を精確に把握することが可能となり、水分子の水素結合状態、そしてイオン周囲の水分子の水和数の空間分布の実験的解明に焦点を絞っていく予定である。当初は、水分子の振動モードの空間分布の実験的解明を行っていたが、イオンの種類、そして濃度による、振動モードの変化に関する統一的な見解を得ることが難しいという結論に至った。イオン周囲の水分子の水和数を求める解析法を新たに開発することにより、イオンの種類、即ち、構造形成イオンと構造破壊イオン、の水和数分布に及ぼす影響を把握することが可能となった。そこで、多波長ラマン散乱光イメージング法を、バルク(体積照射)ならびに界面極近傍(全反射)に適用し、イオン介在による水分子の水素結合状態分布および水和数分布のマッピングを行い、水分子動態を世界に先駆けて実験的に明らかにしていく予定である。そして、細胞内液への適用を試みる。
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Causes of Carryover |
世界的な新型コロナウィルス感染症の蔓延により、実験に必要な機器や部材の不足により、納入にかなりの時間を要したため、計画通りの実験的研究を遂行することが非常に困難であった。研究目的を達成するため、次年度に使用を予定しており、具体的には、全反射・多波長ラマン散乱光イメージング法のシステム構築を完了する。更に、細胞膜の蛋白質の自家蛍光を除去するため、緑色レーザと青色レーザを交互に照射し、細胞膜近傍の細胞内液における水分子動態の定量的把握を行う予定である。
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