2021 Fiscal Year Research-status Report
Optical spin-functional transistor
Project/Area Number |
20K20433
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
村山 明宏 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00333906)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スピントランジスタ / 光スピンダイナミクス / 半導体量子ドット / スピン増幅 / スピン位相 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の情報社会を支える電子情報処理や光通信においてはエネルギー熱損失の解決が大きな課題である。この問題を解決するためには、電子情報処理において光を信号の伝送に用いる光電融合エレクトロニクスと不揮発性の電子スピンメモリを活用する研究が重要である。そのためには、電子スピン情報と光のスピン情報である円偏光特性を直接変換する光電変換素子が必要となり、スピン偏極電子の電流注入により円偏光を発するスピン発光ダイオードやレーザ等の二端子素子が研究されている。 そこで、さらなる光スピン機能の開拓に向けて、円偏光の入力により生成する電子のスピン状態を外部の電界により制御可能な光スピントランジスタを研究する。電子や円偏光のスピン極性を電界により切り替え、さらに電子スピンや円偏光特性の偏り度合いで与えられるスピン偏極の増幅を実現する。そして、最終目標として、スピンの持つ本質的な情報であるスピン位相の電界制御にも挑戦する。 昨年度に引き続き、二次元電子系であるInGaAs量子井戸と量子ドットからなる独自の結合量子構造を用いて、量子井戸に円偏光励起により生成したスピン偏極電子をトンネル効果により量子ドットに注入する電界効果型スピン注入発光素子を作製した。そして、量子井戸からの電子スピン注入直後の量子ドットにおける励起状態に対して、スピンダイナミクスを検出可能な円偏光発光の時間分解測定を行い、電界によるスピン反転のダイナミクス現象を直接観測し、光電スピン機能性について研究を進めている。 今年度は、特に、実用に向けて必須と考えられる室温動作を目指して詳しい温度依存性の研究を行い、また併せて材料と素子構造の検討を行った。その結果、温度の上昇に伴い、量子ドットにいったん注入されるスピン偏極電子が量子井戸へと熱的に再励起され、スピン緩和が促進されることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、二次元電子系であるInGaAs量子井戸と量子ドットからなる独自の結合構造を用いた光学活性層を持つ電界効果型スピン機能発光デバイスを作製している。併せて、量子ドットの励起状態において、井戸から注入された電子スピン特性を検出可能な円偏光発光の時間分解測定を行い、電子・正孔スピン散乱によるドット中の電子スピンの非対称反転速度などの詳しいスピン反転ダイナミクスを研究した。今年度は、実用に向けて必須の室温動作を目指した材料と素子構造、さらに詳しい温度依存性の研究を行った。その結果、温度の上昇に伴い、量子ドットにいったん注入されるスピン偏極電子が量子井戸へと熱的に再励起されスピン緩和が促進されることがわかった。この結果は、室温動作を目指す量子構造のエネルギー準位やトンネルポテンシャルの設計に対して非常に有用な知見を与えている。 また、室温においてスピン偏極の増幅効果を示す希薄窒化GaNAs量子井戸を窒素プラズマ援用分子線エピタキシーにより作製し、その組成や結晶成長条件の検討を行い、発光強度やスピン偏極特性を最適化している。今年度は、InAs量子ドットとトンネル結合したGaNAs量子井戸の構造について詳しい検討を行い、量子ドットに対するトンネルスピン注入特性などの素子構造依存性を明らかにした。また、GaNAs中の電子スピンの歳差運動による伝導電子スピンの位相振動を直接計測するため、円偏光を用いる時間分解発光分光測定系の構築を行った。特に、歳差運動を定量的に計測し解析するために、試料に対して精度の高い横磁場の印加を可能にする新しい電磁石の導入と光学系への組み込みを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
InGaAs量子井戸とドットの結合量子構造を用いる電界効果型のスピン制御発光デバイスについては、引き続き実用に繋がる室温動作を目指して、高温動作に適した井戸厚や組成、ドーピングプロファイルとその濃度、トンネルバリア膜厚などの設計と実際の作製、スピン特性や機能性の評価を進めていく。そして、室温以上で高い性能が期待される希薄窒化GaNAs量子井戸とInAs系量子ドットを組み合わせた電界効果素子を作製し、量子ドットに注入する電子スピンの偏極特性、特に室温を含めた高温領域での電界動作特性を明らかにすることで、実用を目指した光スピン機能素子への応用を検討して行く。 さらに、電界効果素子として、円偏光を受光し発生する伝導電子のスピン偏極にその光スピン情報を転写するスピン受光ダイオードの作製と特性評価を進める。素子構造自体は、現在作製している電界効果素子と類似であるが、電界によりスピン偏極を保持した光励起電子を金属強磁性体電極に輸送し光起電力として検出する。 また、GaNAs中の電子スピンの歳差運動による伝導電子スピンの位相振動については、円偏光を用いる時間分解発光分光による実際の計測と解析を行い、Hanle効果の測定結果と併せて、スピン位相に対する電界の影響や温度依存性の研究を進めていく。 以上により、電子のスピン偏極情報と光のスピンである円偏光の情報変換やスピン情報であるそれらの偏極度を電界で制御する光スピントランジスタの素子構造の確立と、実用に繋げるための室温動作を確立して行く。
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