2019 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of novel pharmaceutical application field utilizing ionic liquids
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19H05518
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
後藤 雅宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (10211921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田原 義朗 同志社大学, 理工学部, 准教授 (30638383)
原田 耕志 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (60253217)
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 助教 (60595148)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | イオン液体 / DDS / 経皮吸収 / 難溶解性薬物 / 創薬工学 / 麻酔薬 / 医工連携 / アビガン |
Outline of Annual Research Achievements |
イオン液体の創薬応用においては、臨床レベルでイオン液体が利用された例は少なく、研究領域として大きく発展するまでには至っていない。その解決のポイントは医薬応用可能な生体適合性のイオン液体創生にある。そこで本研究では、生体適合性のイオン液体開発を行い医工連携研究を通して、これまでの製剤技術の体系や方向性を大きく変革するようなイオン液体研究に挑戦した。特に、イオン液体を用いた創薬研究において、臨床レベルで安全性と有効性が確認されたイオン液体製剤の創出を目標とした。 本研究では、ヒトに安全なイオン液体を創出し臨床試験を行うとともに、モデル解析による機能評価を繰り返す医工連携研究を展開した。医療従事者に対し、工学的機能解析の重要性を共有し、イオン液体麻酔製剤開発をモデルとして、新たな創薬開発の仕組みを構築した。有効性の高い製剤開発の手法を提案し、イオン液体を利用した創薬研究の可能性を見出した。 具体的に本研究では、イオン液体を用いた創薬研究に“生体適合イオン液体の創生”という新たな挑戦項目を設定し、イオン液体の世界に“薬物応用”という新しい研究領域を開拓することに挑戦した。イオン液体の創薬応用においては、臨床レベルでイオン液体が利用された例は少なく、研究領域として大きく発展するまでには至っていない。その最大の課題は生体適合性のイオン液体開発にあった。そこで本研究では、コリン、アミノ酸、脂肪酸およびリン脂質を用いた4種類の生体適合性のイオン液体開発を行い、いずれも低毒性であることを確認した。これまでの製剤技術の体系や方向性を大きく変革するようなイオン液体研究を展開し、イオン液体が、特に経皮薬物送達に有効であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオン液体の基本設計は、すでに生体への安全性が担保されている分子同士の組み合わせは安全であるという基本概念の下、イオン液体の各種合成を試み、さらに物性の評価、製剤としての長期安定性などの確認を行った。またpHや浸透圧、滅菌操作などの臨床試験に求められる基本物性をクリアできるのかを検証し、リドカインを基本としたイオン液体化麻酔剤を構築した。 中でも水と混和しない“疎水性”の生体適合イオン液体は、水や塩が大量に存在する体内でもイオン液体として機能することが期待される。しかしながらイオン液体を調製可能な生体由来のカチオンは、コリンとアミノ酸エステルに限定されており、現在までに“疎水性”の生体適合イオン液体は存在しない。そこで本研究では、生体由来材料の中で高い疎水性を示す“リン脂質”をカチオンとした新規イオン液体の開発を試みた。具体的には1分子内にコリンカチオンとリン酸アニオンが存在するリン脂質のリン酸基をエタノールによってエステル化した、エチルホスホコリンをカチオンとして利用した。 イオン液体化麻酔剤については、細胞や動物・皮膚モデルにおけるスクリーニングを行った。しかしながら、動物皮膚モデルにおいて皮膚透過性が高い製剤が、必ずしも実際のヒトの臨床試験において高い麻酔効果を示すとは限らないということが分かった。よって皮膚透過実験だけでなく、血中へのクリアランス、神経細胞への相互作用などの実験を行った。また麻酔効果と上記で得られた物性の関係を考察するため、薬物動態に関する各パラメーターを算出可能なコンパートメント解析を行い、物性・動物モデル・ヒトでの効果についての定量的な解析を行った。その結果、イオン液体を含む経皮製剤によって、その麻酔効果は大きく向上することが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにイオン液体を調製可能な生体由来のカチオンは、コリンとアミノ酸及び脂肪酸に限定されており、現在までに“疎水性”の生体適合イオン液体は存在しない。そこで、次年度は、生体由来材料の中で高い疎水性を示す“リン脂質”をカチオンとした新規イオン液体の開発を試みる。 特に難溶解性薬物で代表的なアビガンは、COVID-19の治療薬として高い有効性が確認されているが、現状、血中移行濃度が乏しいため、大量の投与が必要とされている。よって、アビガンの吸収改善が期待されており、製薬業界に与えるインパクトは大きい。経皮デリバリーは薬が皮膚の角層という疎水性の高いバリアを通過する必要があるため、イオン液体による可溶化および長期に薬物徐放が可能な経皮製剤化は大変有効であると考えている。 さらには、経皮ワクチンの吸収促進剤としての利用を考えている。ペプチドなどの可溶化に有効であるため、がん抗原ペプチを利用した経皮がんワクチンの創成にもチャレンジする方針である。
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