2020 Fiscal Year Research-status Report
冷却イオントラップ分光による天然変性タンパク質複合体へのボトムアップアプローチ
Project/Area Number |
20K20446
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤井 正明 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60181319)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石内 俊一 東京工業大学, 理学院, 教授 (40338257)
平田 圭祐 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (80845777)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 天然変性タンパク質 / レーザー分光 / 赤外分光 / 冷却イオントラップ / 質量分析 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)YEMPS-ドーパミン複合体の冷却イオントラップ赤外分光 天然変性タンパク質であるα-シヌクレインのドーパミン結合部位であるYEMPS配列の部分ペプチドAc-YEMPS-NHMe(以降YEMPS)とプロトン付加ドーパミンの複合体をエレクトロスプレーで気相中に取り出し,冷却イオントラップ中で極低温下で赤外スペクトルを測定した。α-シヌクレインではドーパミンのカテコールOH基がYEMPSと結合することが知られているが,プロトン付加ドーパミンではプロトン化されたアミノ基がYEMPSと優先的に結合してしまうため,それを避けるために,18C6クラウンエーテルでプロトン化アミノ基を包接保護した。これにより,YEMPSとカテコールOH基が結合した構造を形成させることができた。YEMPSの2次構造を明らかにするために,ペプチド結合のC=O伸縮振動(amide-I)を測定したところ,1650 cm-1にバンドが観測された。これはタンパク質の赤外分光で知られているα-ヘリックスに由来するバンドであり,ドーパミンとの複合体を形成することでヘリックス構造が誘起されることが分かった。
2)理論計算による構造帰属 1)で観測された赤外スペクトルを再現する構造を理論計算を用いて探索した。まずはカテコールとYEMPSの複合体の構造を検討した。最初に力場計算により種々のヘリックス構造を得て,それらを初期構造としてDFT計算により構造最適化を行なった。得られた最適化構造のカテコールを,同じくDFT計算により構造最適化されたプロトン付加ドーパミン-クラウンエーテル複合体に変更し,DFT計算による構造最適化と赤外スペクトル計算を行なった。得られた計算赤外スペクトルと実測のスペクトルの比較を行なったところ,C10ヘリックス構造が実測のスペクトルをよく再現することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験測定は問題なく計画通りに進んでいる。理論解析では,研究対象が複雑な分子系であるため,膨大な数の可能な構造を考える必要があるが,実験結果を取り入れることで探索すべき構造を絞り込み計算コストを削減できた。また,いきなり全系を計算するのではなく,部分ごとに構造最適化し,最後にそれらを結合するという手法を用いることで,実験結果を再現する構造を見出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
YEMPSに対して位置選択的な同位体(15N, 13C)ラベルをし,赤外スペクトルのバンドシフトから,N-H伸縮やC=O伸縮バンドがどのペプチド結合に由来するかを帰属する。これにより,理論計算で得られた赤外スペクトルとの対応関係を正確に決定し,構造帰属の妥当性をする。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症蔓延のため,1)国際会議や国内学会の旅費が全て未使用であったこと,加えて,2)大学の閉鎖により実験があまり進まず,計算機を用いた研究に注力した,等の理由により当該年度の未使用予算を次年度に繰り越すこととした。現状,ほぼ通常通りに実験ができる様になっているため,同位体置換体などの実験を中心に進めていく予定である。
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