2019 Fiscal Year Annual Research Report
βグルカンによるDNA2重らせんの裂開メカニズムなど:化学的量子状態間の転移挙動
Project/Area Number |
19H05531
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
櫻井 和朗 北九州市立大学, 環境技術研究所, 教授 (70343431)
|
Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2023-03-31
|
Keywords | 化学的量子状態 / 多糖核酸複合体 / 小角X線散乱 / プラトニックミセル |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は天然の糖類の一種であるβ1,3グルカン(以下SPG)とDNAが全く新しいタイプの高分子複合体を形成することを発見し、DDSへの応用研究を医学研究者や企業と進めてきた。その成果は、感染症ワクチンの効果を高める補助剤のアジュバントの開発が進んでいる。 本年度は、分子量(分子の長さ)が低く制御されたSPGを使って複合体を作ると、DNAがSPGの中から複合体を作るに最適な長さの分子だけを選び出して、低分子化合物のような分布のない複合体を作ることが分かった。これまでにDNAを1本と2本含む複合体を単離して詳細に解析し論文化を進めている。我々はこの複合体を従来の分布が広い多糖核酸複合体と区別する意味で、量子化多糖核酸複合体(qSDC)と呼んでいる。これはDNAの本数で複合体が量子化されているからである。qSDCは単分散で小さなタンパク質程度の分子量をもつ中分子医薬のようである。 このqSDCからなる複合体を用いて、核酸医薬の細胞への導入試験をしたところ飛躍的に高い効果を示した。qSDCの活性が高い理由は不明であり、細胞取り込み、エンドソームからの脱出などを、細胞内動態を蛍光顕微鏡観察している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多糖核酸複合体:上述したように単離したqSDCに関しての物性に関するデータをまとめて論文化を進めている。 プラトニックミセル:不連続に会合数が変化する理論に関しては、アイデアを得て基礎方程式の構築は終わった。概略をしめす。通常のミセルの塩濃度変化を自由エネルギーの変化として考えると、安定だった初期状態Aが変化後では不安定になりユニマーの濃度が増加するとともに会合数は自由エネルギー斜面を異なる状態Bに向かって変化していく。ことのとき、変化は必ず指数関数的に変化する。なぜなら、ダイナミクスを記述する微分方程式に必ず指数関数を与える項が含まれるからである。プラトニックミセルの場合は一般的なミセルの自由エネルギーの曲面から被覆率の分だけ低くなっていると考えても良い。その安定化の分は熱揺らぎより大きくなくてはならない。なぜなら、逆だとやはり指数関数を与える項が含まれ誘導期は現れない。我々はシグモイダル的な変化の理由として8個のユニマーと12量体から20量体が形成されるモデルを考えた。 この理論では、8√(k+12→20)[un]が1を超えると急速に20量体が形成されることが説明できる。このようなモデルで反応速度論的な連立微分方程式を組み立てて計算すると実験を上手く説明することができる。現在、理論の数学的な精密化(微分方程式の安定解が存在する条件など)をすすめている。
|
Strategy for Future Research Activity |
プラトニックミセル:今まで合成してきたカリクサレン以外の脂質の中で、糖やペプチドなどの大きな親水性基を有する化合物でもこの現象を示す。特に、天然の環状ペプチドからなるサーファクチンが同様のプラトニックミセルの性質を示すので、この化合物に関して、超遠心などを用いて分子量とその分布を測定して、系の性質を詳細に調べる予定である。その後、これらの化合物に関しても温度や塩濃度ジャンプをしたあとのミセル形成ダイナミクスの時間分解X線測定を行う。 多糖核酸複合体:多糖核酸複合体が形成される2つの過程に関して、時間分解放射光X線散乱法と時間分解円偏向2色性測定を用いて解明する。また、この変化は極めて遅いので、形成過程を多角度光散乱光度計や動的光散乱計と組合したゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)の溶出曲線でも追跡できるか試みる。さらにはDNAや多糖に蛍光色素を修飾して、FRETを観測することでDNAの2重鎖の開裂を見ていく。この時、標的DNA鎖の5’端と3’端でのFRET観測からどちらの端からDNAが開いていくかを検討する。
|
Research Products
(19 results)