2021 Fiscal Year Research-status Report
Adipocytic transdifferentiation of osteosarcoma by global genetic reprogramming
Project/Area Number |
20K20474
|
Research Institution | Tokyo Medical University |
Principal Investigator |
山田 哲司 東京医科大学, 医学部, 客員教授 (30221659)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
弘實 透 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70594539)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 骨肉腫 / Wntシグナル / TNIK |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が開発したNCB-0846 (Masuda et al., Nature Commun., 7:12586, 2016)は、MYCの近位プロモーターに結合する転写因子TCF4のco-activatorであるTRAF2 and NCK-interacting protein kinase (TNIK)の高次構造を変化させることで、その転写共役機能を抑制するallosteric modulatorであり、MYCの発現を抑制し、その標的遺伝子群をリプログラミング(再構成)することで抗腫瘍効果を発揮することが明らかになった。例えばNCB-0846は、iPS細胞の誘導に必須な幹細胞性因子(SOX2、NANOG、OCT4等)の発現を抑制し、逆に脂肪細胞系譜のマスター遺伝子(PPARG)の発現を誘導することで、骨肉腫細胞を脂肪細胞へ分化転換(trans-differentiation)させることが明らかになった。骨肉腫の細胞株9種のうち、7株はNCB-0846に高い感受性を示し、骨肉腫の新たな治療薬となると考えられた。
この知見を治療薬として実用化するため、NCB-0846の誘導体285種をMYCの発現抑制でスクリーニングし、新たなキナゾリン誘導体YMD-0046を発見した。令和3年度には次世代シーケンサーを用いた発現解析を行い、YMD-0046の被制御遺伝子をゲノム網羅的に同定した。また、MYCとTCF4に特異的なモノクローナルを用いてクロマチン免疫沈降を行い、作用する遺伝子転写制御領域(エンハンサー・プロモーター)をゲノム網羅的に同定し、転写因子結合モチーフを確認した。さらに、遺伝子発現解析との統合解析でMYCとTCF4が直接制御する遺伝子と間接的に制御する遺伝子を判別し、階層的な転写制御の全体像を明らかにすることが出来た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
大腸がんのWntシグナルの抑制を目的として開発したTNIK阻害化合物NCB-0846が、広範な遺伝子転写リプログラミングによって骨肉腫細胞を脂肪細胞へ分化転換させることを本課題で明らかにした。NCB-0846による広範な遺伝子転写のリプログラミングは、スーパーエンハンサー領域のDNAメチル化やヒストンアセチル化等のエピゲノミック制御によるクロマチンリモデリングに起因すると当初考えていたが、次世代シーケンサーで網羅的な遺伝子発現解析を行ったところ、がん遺伝子MYCの転写抑制がNCB-0846の主な作用機序(Mode of Action)であることが明らかになった。
本研究課題ではさらにNCB-0846の高いMYC発現抑制活性に注目し、NCB-0846の基本構造を持つ誘導体285種類をMYCの発現抑制を指標としたcell-based screeningを行い、NCB-0846より低濃度でMYCの発現を抑制できる新規キナゾリン誘導体YMD-0046を発見することが出来た。MYCは全悪性腫瘍のうち最も高頻度(14%)に遺伝子増幅するがん遺伝子であり、多くの製薬企業がその阻害薬開発を試みているが、成功したものはない。我々が発見した新規キナゾリン誘導体YMD-0046は低濃度でMYCの発現を完全に抑制できることから、first-in-classの新たな治療薬として実用化できる可能性が高く、当初の計画以上の成果が得られたと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
我が国ではOncoGuide NCCやFoundationOne CDxなどの「がん遺伝子パネル検査」が保険収載され、個々のがん患者のドライバー遺伝子を特定して最適な治療薬を選択する所謂「ゲノム医療」の推進が期待されている。MYC遺伝子の増幅のある腫瘍細胞に対して低濃度で、選択的に殺細胞効果を示す新規キナゾリン誘導体YMD-0046は、骨肉腫以外でも、大腸がん、トリプルネガティブ乳がん、小細胞肺がん、去勢抵抗性前立腺がん、小児小脳髄芽腫(希少がん)、骨肉腫(希少がん)、滑膜肉腫(希少がん)等の有効な治療法がなく難治性のMYC遺伝子増幅腫瘍に対する第一選択薬として実用化できることが期待できる。
令和3年度の日本医療研究開発機構の革新的がん医療実用化研究事業に研究開発課題「がん遺伝子MYCの転写を標的とした治療薬の開発」が採択され、3年の期間内にIND (Investigational New Drug)-enableな各種非臨床試験及びGLP (Good Laboratory Practice)に準拠した毒性試験を終了させることを目標とした研究開発が進んでいる。
|
Causes of Carryover |
MYC遺伝子の増幅のある腫瘍細胞に対して低濃度で、選択的に殺細胞効果を示す新規キナゾリン誘導体YMD-0046を治療薬として実用化するためには、臨床例における薬効を良く反映するPDX (patient-derived xenograft)を用いた薬効薬理試験の実施が必須である。令和3年度にMYC 遺伝子のコピー数増加のあるPDXより病理組織切片を作製し、FISH (Fluorescence in situ hybridization)法と免疫組織染色法でMYC遺伝子の増幅とMYC並びにβ-catenin 蛋白の発現亢進を確認できたPDXの凍結保存組織をマウスに移植したが、十分な腫瘍増殖が得られず、薬効薬理試験の実施が令和4年度に延期になった。
|