2020 Fiscal Year Research-status Report
Ethnography study for Fukushima nuclear dissaster
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20K20507
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Research Institution | Louis Pasteur Center for Medical Research |
Principal Investigator |
高垣 政雄 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター, その他部局等, 研究員(移行) (70252533)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2026-03-31
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Keywords | 原子炉災害の民族誌 / 福島第一原発事故 / 福島県飯舘村 / 放射能汚染 / 原子力科学の責任 / 原子力政策の責任 / コミュ二ティー再生 / 限界集落 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は2014-2016年度と2017-2019年度の通算6年間、学振研究支援により、震災直後から仮設に滞在しての調査に始まり、2016年6月の避難解除後の帰村民との定期的な集会や個別訪問による聞き取り調査を、被災者支援を心がけながら経時的に行ってきている。これらのデータは代表者の博士論文(京都大学人間環境学研究科共生文明学講座文化人類学分野)として執筆中である。 これまでの長期調査(震災直後より足掛け7年)により得られた人的環境(被災者、東京電力、行政、研究者など)では親密圏とも言える貴重な研究の場として関係を構築しており、本研究課題調査を容易かつユニークにしている。 本研究では、避難解除され帰村した村民とその家族との集会を定期的行い、コミュニティー再生過程、限界集落化などと、東電、行政、研究者らの関わりを中心に参与観察を行ってきている。加害者―被害者が同じ集会でなんの喧騒もなく理解しあって将来を見据えた集会を民族誌の枠組みで可能にした。さらに従来の民族誌フィールドワークに加えて、文理融合型、かつ支援介入型の[民族誌]を挑戦的に試みることにより、やむなく低レベル放射線環境に暮らすための行動変容と放射線リスクの低減化に導くことに繋げることが出来た。 2017年6月飯舘村は蕨平など高線量区域を覗き概ね避難解除され、避難村民の自由意志に基づいた帰村が実施された。村の自宅に帰るもの、さらなる被曝を避けて新天地に移住するものなど多様な帰村の物語があった。飯舘村に帰村したもののほとんどは高齢者で、人口の1割程度であった。震災直後に他府県など遠方に逃れたものはすでに既存の術はなく、行政の多様な政策にもかかわらずコミュニティー再生には未だ至っていないことが確認できた。今後、限界集落化から恢復するのか、あるいは新たなコミュニティーの形態をもった村に発展するのかを引き続き参与観察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
避難解除後2年程度が過ぎ、生活の復興が難しいこと、コミュニティー再生が進まないこと、生業である農業が除染による土壌の養分が劣化し農作物の生育が難しいこと、など、帰村民の間に諦めに似た感情が現れ始めており、居直り的な落ち着きが見られるようになっている。引き続きフィールドワークを通して復興の現実を観察する。一方、飯舘村生活圏での放射能レベルは大凡0.2-0.3μSv/hrで代表者が暮らす京都市内と比較して大凡5倍程度のレベルで、国が定めた年間許容放射能レベルを依然上回っている。被災初期の科学者の言説には一貫性がなく、村民からは御用学者だとレッテルを貼られ、村民らは安全を求め右往左往するなど災害時の科学の限界が明らかになっている。そこで、巨大災害と科学の限界および災害と個人の接点といった二つの視点でヒトが究極的に原発事故とどう立ち向かうのかを明らかにすることで、原子炉のミクロ人類学として考究し、近未来における原子炉と人類の関係を探ろうとしている。 本研究課題は研究代表者の文理融合的研究スタンスと科学的知識に裏付けされた、他の民族誌と比較して科学的リアリティーを持つ民族誌としての挑戦的である。さらにここでのフィールドワークは、研究スタンスの他に、被災村民を支援するスタンスを取り入れることで、回りくどいようであるが、結果的に村民をフィールドワークに参加させることができ、民族誌に深みとリアリティーをもたらす試みが可能となっている。エスノグラファーはフィールドにおいては村民と同様に被爆民となり、そこでは放射能を共通issueとして、村民とエスノグファーとの関係に強い親密さをもたらすことができ、人と災害の関係を深く考究することを可能にしている。 2020年度はコロナ渦の影響によりフィールドワークは困難となり、文献調査、オンラインにより調査を行なった。
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Strategy for Future Research Activity |
原子炉災害では原発災害によりもたらされる核物理現象がほぼ同一でも、フィールドにより人間社会にもたらされる影響が違うことの所在を、双葉町、大熊町などの未だ立ち入りすら困難な区域を抱えながら復興を目指そうとしている高線量地域に調査地を拡大し、更にチェルノブイリ、スリーマイルの主に先行研究から相対人類学的分析により明らかにすることで、原発災害ハザードを制御できないか考究を深める。われわれが普段生活する空間norm(正常)と放射能空間patho(異常)の接触境界領域に生きる、あるいは往来する、更に共存するための知識武装を提供できるものと期待される。 本研究は実験室における社会実践の民族誌学的研究ではなく、研究者達の言説を文化人類学的手法によって分析し、研究者達の研究対象である[物]としての原子炉それ自体の民族誌を記述することは、とりわけ福島での原発事故以来その意義は増していると思われる。本研究は文化人類学を手段として利用するいわゆる応用人類学に分類されるものであるが、多くの科学研究者らが行う科学的実践に参与するだけの民俗誌にとどまらず、科学者の研究対象がエスノグラファーのそれと同じであるというユニークな科学民族誌としての新たな道を開く研究としても興味深い。科学者集団への参与あるいは自ら医師、放射線防護学専門家として行う原子力科学における科学的実践を通して原子炉を民俗誌として記述できる機会は今を除いてそのチャンスはない、、二度とあってはならないのだが、、。 福島第一原発事故による被災者、被災地の調査を文化人類学の中で被災者に人道的に寄り添いながら被災地での放射線環境に対する防護文化の生成を試みる。被ばく環境で暮らすための新たな放射線防護文化を生成するために民族学的手法を展開させ、科学的実践を介して科学と被災住民の相互理解を通して被災地を再生する一助となることをひたすら願っている。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ渦の影響でフールドワークが大きく制限され、文献調査、オンライン調査により研究を継続したため。
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