2021 Fiscal Year Research-status Report
稀少不安定原子核反応研究のための静止不安定核標的の開発
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20K20526
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
若杉 昌徳 京都大学, 化学研究所, 教授 (70250107)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川原 亮 京都大学, 化学研究所, 助教 (00807729)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | イオントラップ / ビームリサイクル / 内部標的 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、重イオン蓄積リングを用いた稀少RIの精密反応研究を実現できるビームリサイクル法における、重要な要素である静止RI標的の開発である。蓄積リングに挿入することを想定して、ビームリサイクル技術の確立のため、また世界で初めてRIビーム同士の衝突・核反応実験を可能にしする手法の確立を目的とする。 過去2年間において2つの開発を行ってきた。1つには、数十keVの連続電子ビームを用いたEBIS型イオン蓄積装置を開発製作した。直径100um程度の電子ビームを縦方向井戸型ポテンシャルを形成する電極を通し、その中に重イオンをトラップし、高密度イオン標的とする。さらに新規の縦方向イオン運動のマイクロ波共振を利用して残留ガスイオンを排除する仕組みを開発した。この新アイデアは、真逆の利用法が利用できる。残留ガスを含めると多くのイオン種(質量、電荷数が異なる)がトラップされている中で特定のイオンのみを選択的に取り出すことができるので、例えば一つの元素が特定の価数のイオンになったものだけを取り出すことができ、原理的に100%の荷電変換装置となる。従来の荷電変換装置の変換効率を飛躍的に向上させることができる。 2つめは、ビームリサイクル技術に必要なリング内における運動補正のための信号をビームの標的通過によって発生させる仕組みである。ビームが標的通過時に生じるエネルギー分散と角度分散は、ビームをリング周回軌道から逸脱させる。本年はこれを補償する仕組みを実証するための標的システムを製作した。プロトタイプとして薄膜標的を用いて、ビームが通過したタイミングと位置情報を取り出すことに成功した。タイミング信号と位置信号は加工増幅されてリング内の分散補償装置にビームに同期して導入され分散拡大を抑制する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は次世代のRI静止標的を開発することである。これまで数の少ないRIは生成できても標的とすることはできず、標的としても核壊変によって純度を失うので、RIを静止標的とする考えかたすらなかった。しかし、RIを静止標的とすることができれば通常の核反応研究においても、蓄積リングを用いた内部標的研究においても全く新しい研究を開拓してゆく原動力となる。 これまでの進捗は、まず実際の静止標的のプロトタイプとしてEBIS型のトラップ標的の製作に成功し、その性能評価を行ってきた。そこで、本トラップ装置が十分な蓄積能力を有していることを明らかにしたほか、まだ数字は荒いがおよそ10^10/cm^2以上の厚さの標的が可能であることがしめされた。これは非常に大きな一歩と言える。我々がSCRITシステム開発で製作したRI標的システムでの標的の厚さが10^9/cm^2であるので一桁以上の向上と言える。本研究の標的厚目標は10^11/cm2であるので、もう少しの改良や工夫によって到達可能と考えられる。 次にもう一つ大きな課題として、蓄積リングを用いたビームリサイクルへの応用を目指した技術開発があるが、その時の最重要課題はビーム情報を本標的から取り出すということにある。ビームが標的通過によって与えられるエネルギーと角度の分散によって短時間で消失してしまうことを防ぐため、自身が作る信号によるフィードバックシステムを構築する必要がある。そのための信号取り出しの試験機を製作し信号取り出しに成功している。通過タイミングと通過位置情報である。現状、計算によって推定されている位置の測定精度よりも高い分解能が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、EBIS型トラップ装置に重イオンを蓄積して、不安定原子核の静止標的を開発することにある。これまでの研究によってその原型を製作し、基本的な性能評価のための測定ができる状態となった。 今後の方策としては、本プロトタイプの完成形を製作することと、標的としての基本性能を評価すること、そしてその改善策を明らかにすることである。まず完成形とするために重イオンを装置の外から入射するイオン源およびビームラインの製作と接続をする。任意の重イオンの良くわかった量を入射して測定量を明確にするする。次に標的としての条件となる、トラップ中での蓄積寿命と標的厚が目標に達するために必要な改良および調整を行う。蓄積寿命は最低10秒、標的厚の目標値は10^11/cm2である。現状では10^10/cm2程度が推定されることがわかっているので、もう一桁の向上が必要である。 次に標的にとって邪魔な存在となる残留ガスイオンの排除あるいは低減措置についての開発を実施する。つまり標的としての純度向上の研究を行う。これにはトラップ中のイオンのダイナミックスや状態についての知見が必要とされるため、それを記述する定式化の研究を行い、その計算に基づいて純度向上の工夫を施すと同時に超高真空化に努力する必要がある。 十分な標的厚と安定的な運転、そして十分な純度を達成することにより標的としての高い汎用性を獲得できる。京大化研においては、現状不安定核を使用できないので、これらの研究は安定核を用いて行うが、この技術を理研RIBFに持ち込み不安定核静止標的として完成させる予定である。
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Causes of Carryover |
令和3年度は上記支出の他に外部イオン入射用ビームライン整備製作予定であったが、実験遂行してゆく中で、性能評価のための実験をより効果的にするための改良にかなりのエフォートを割かれた結果、ビームラインの設計まではできたものの発注にはまだ至っていない。従って、入射ビームラインの製作とトラップ電極の改良による、プロトタイプの完成系の構築を令和4年度に実施し、その性能評価実験を実施する。
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