2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K20556
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芦原 聡 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10302621)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 中赤外波長域 / 超短パルスレーザー / 多段階振動励起 / 化学反応制御 / レーザー加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
中赤外超短パルスレーザーを用いると,特定の分子振動モードを選択して強い振動励起を実現できる。これは、特定の化学結合にエネルギーを供給できることを意味する。本研究では、この「モード選択的な励起」を通して化学反応制御や有機材料加工を達成する手法およびその基礎をなす学術を開拓する。 初年度は、中赤外波形整形パルスによる多段階振動励起の理論解析に取り組んだ。分子の量子状態に関する密度行列の時間発展を数値的に計算するコードを開発し、赤外パルスの電場波形およびフルエンスに応じた振動励起ダイナミクスの予測を行った。また、中赤外パルスによる多段階振動励起実験のためのポンプ・プローブ分光測定系を開発した。 二年目は、赤外ポンプ・プローブ分光法による気相分子の振動・回転励起ダイナミクスの観測に取り組み、振動励起に伴う吸収スペクトル変化の観測に成功した。 三年目となる本年度は、赤外フェムト秒パルスを用いて、気相分子の振動・回転波束の生成に成功した。具体的には、多段階振動励起と同時に複数の回転準位の重ね合わせ(波束)を生成できることを初めて実験的に示した。並行して、液相分子を対象とする実験も行い、量子数10に迫る多段階振動励起が可能であることを示した。これらは、振動励起による化学反応制御の潜在能力を示す重要な成果といえる。また、赤外パルスを用いた有機材料加工にも取り組み、振動モードとの共鳴により効率的な光吸収とそれに続く加工が起こることを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
モード選択的励起による化学反応制御へ向けて、赤外パルスを用いたポンプ・プローブ分光測定系を開発し、それを用いて気相・液相のそれぞれの低分子試料について、多段階振動励起および振動緩和ダイナミクスの観測に成功した。特に、高振動励起状態において回転波束を生成した例は過去になく、新たな分子制御スキームを提示したという大きな意義がある。また、低分子試料の枠を超えて、有機材料を対象とする加工実験にも着手し、一定の成果が得られたことから、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
理論解析により求めた電場波形をもつ中赤外パルスを用いて、気相および液相それぞれにおける低分子の多段階励起を行い、振動励起による分子の化学反応性の変化を明らかにする。特に、金属ナノ構造の表面プラズモンを利用して、電極表面を高感度かつ高い時間分解能で計測できる赤外分光システムを用いることにより、電極反応の観測にも挑戦する。並行して、有機材料を対象とする加工実験においては、パルスのエネルギー・チャープ量・ショット数などを変化させ、生じた表面形状変化を光学顕微鏡によって計測することで、赤外パルスを有機材料に適用した場合の加工メカニズムを明らかにする。
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Causes of Carryover |
励起用レーザーの調達に想定以上の時間を要し、納期が年度内に間に合わない可能性があったため、次年度に執行することとした。この調達に加えて、必要となる光学素子類などに宛てる。以上をもって、当初予定していた研究を次年度に実施する予定である。
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