2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K20560
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
立間 徹 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90242247)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | プラズモン共鳴 / キラリティー / 化学センサ / 金属ナノ粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、プラズモン共鳴を示すキラルナノ構造を作製し、アミノ酸などのキラル分子について、そのキラリティーを区別してセンシングできるセンサの開発を目的としている。 本年度はまず、キラリティーのより高いナノ構造の作製を目的とした。材料としては金、銀などの貴金属と、電子伝導性の高い金属酸化物または硫化物を対象とし、キラル源としては材料に吸着しやすいキラル分子か、円偏光を用いた。 酸化インジウム-スズ透明電極上で、キラル分子の存在下において塩化金酸イオンを電解還元して金を析出させた。キラル分子がR体かS体かによって、円偏光二色性(CD)スペクトルのシグナルの正負が反転した。従来は核の合成、キラル粒子への成長、基板への固定化、という3段階のプロセスが必要であったが、本研究によって1段階プロセスで掌性の異なるキラルプラズモニックナノ構造の合成・固定化が可能となった。 こうして作製したナノ構造担持基板をR体分子またはS体分子に浸漬して円偏光二色性スペクトルを測定すると、それぞれ特定の掌性をもつ分子の存在下で、円偏光二色性シグナルが強くなることがわかり、センシングに使用できることを確認できた。 また、酸化チタン薄膜上に金ナノキューブを担持し、右または左の円偏光照射下で鉛(II)イオンを酸化して酸化鉛(IV)を析出した。照射光が右円偏光か左円偏光かによって、円偏光二色性スペクトルのシグナルの正負が反転した。こうして、キラル分子をキラル源とする方法と、円偏光をキラル源とする方法によって、それぞれキラルプラズモニックナノ構造を作り分けることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずは電子線リソグラフィーなどの高価で時間のかかるトップダウン法ではなく、安価で大面積に対応可能なボトムアップ法で高いキラリティーを持つプラズモニックナノ構造を作製することが重要である。 キラル源として金に吸着しやすいキラル分子を使い、電解析出法と組み合わせることで、従来の3段階ではなく1段階で、キラルプラズモニックナノ構造の合成と基板への固定化を同時に起こなうことが可能となった。こうして作製したキラルプラズモニックナノ構造は、比較的大きなキラリティーを示すことがわかった。これを使い、キラル分子のセンシング(R体とS体の区別)が可能であることを確認できた。 また、酸化チタン薄膜上に担持した金ナノキューブに、鉛(II)イオン存在下で円偏光を照射して酸化鉛(IV)を析出させることにより、キラルプラズモニックナノ構造を合成した。照射光が右円偏光か左円偏光かによって、円偏光二色性スペクトルのシグナルの正負が反転することを確認した。円偏光をキラル源として作製したこれまでのキラルナノ構造と比べてさらに高いキラリティーを示すことがわかった。 このように、キラル分子をキラル源とする方法と、円偏光をキラル源とする方法によって、掌性の異なるキラルプラズモニックナノ構造の作り分けに成功し、センサへの適用可能性も確認できた。これらのことから、本研究はきわめて順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度において、複数の手法によるキラルプラズモニックナノ構造の作製を行った。今年度以降においては、キラルプラズモニックナノ構造のキラリティーをさらに強くしたり、より簡便に作製できるようにする。また、金属材料の種類を変えたり、組み合わせる金属酸化物の種類も変更したりするほか、粒子形状の対称性を低くしたり、粒子サイズを小さくするなど、さまざまなキラル構造の作製を試みる。こうすることで、キラリティーの向上のほか、キラル分子などとの相互作用が起きやすくするべく、検討を行う。 また必要に応じ、3次元キラリティーだけでなく2次元キラリティーを持つキラルプラズモニックナノ構造の作製も試みる。 次いで、粒子の配向制御や積層化の可能性についても検討する。 それらを利用して、キラル分子のR体とS体の区別が可能な化学センサー、バイオセンサーへの応用を試みる。また、キラル分子の分離に利用できる機能材料やデバイスの開発も検討する。そして、その他の応用の可能性についても探索を行う。
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Causes of Carryover |
電解析出によるキラルプラズモニックナノ構造の作製が想定よりもうまく進み、円偏光を用いたナノ構造の作製よりも優先して行ったため、後者に使用した光学フィルター類、ランプ類などの使用量が当初の予定よりも少なかったため。これについては、次年度以降に使用して研究を進める。 円偏光を用いたナノ構造作製の論文報告について、当初はコミュニケーション(速報)をまず報告する予定であったが、データを加えてより充実させた形で次年度に報告することに変更したため、論文掲載費の支出がずれ込んだ。電解析出によるキラルプラズモニックナノ構造の作製についても、センサー特性の一部を盛り込むことにしたため、論文の投稿が次年度にずれ込んだ。いずれも、次年度に支出することとなる。 加えて、パンデミックの影響により国際会議や国内の学会への参加に伴う旅費の支出がなくなった。この分は、検討が進んでいる電解析出によるナノ構造作製のための費用として次年度に支出することとした。
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Research Products
(10 results)