2022 Fiscal Year Research-status Report
Exploring the Possibility of a "Copepod Fishery" targeting on the Marine Lower Trophic Organisms
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20K20573
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山口 篤 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (50344495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松石 隆 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (60250502)
向井 徹 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (60209971)
藤森 康澄 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40261341)
別府 史章 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10707540)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2026-03-31
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Keywords | 動物プランクトン / カイアシ類 / 海洋生態系 / 気候変動 / 未利用資源 / オイル / サプリメント / オキアミ類 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の地球温暖化によると考えられる海洋への影響は、「海洋熱波」という形で現れる。海洋熱波による海洋生態系の変化は、世代時間の短い動物プランクトンにまず表れると考えられ、水温とプランクトンとの間に、どのような関係があるのかを明らかにするのは、喫緊の課題である。今年度は、北部北太平洋における動物プランクトン相に優占するカイアシ類3種(ユーカラヌス、メトリディア、ネオカラヌス)を対象として、水温を3条件に変えて飼育し、成長率を明らかにした。 ユーカラヌスとメトリディアの成長率は3つの水温条件のうち、最も高水温な条件において高くなる傾向があった。ネオカラヌスの成長率は、多くの実験において、最も高い成長率を示したのは水温が中間の実験区であった。これは、先の2種とは異なる水温に対する本種の応答であった。この水温に対する成長率の応答の種間差は、各々の種の水温耐性や至適水温の種間差の反映と考えられる。すなわち、ユーカラヌスとメトリディアは表層で再生産 (income breeding) を行い、ある程度の高水温への耐性があるが、深海で再生産 (capital breeding) を行い、高水温期には深海に潜るネオカラヌスの高水温への耐性は、前2種よりも低いと考えられる。 近年の地域温暖化に起因すると考えられる海洋熱波は、1987-2016年には地球全体で、1925-1954年に比べて、年間の日数は50%以上増加したとされている。北太平洋においても海洋熱波は、2014-2016年にかけて東部アラスカ湾、2021年に西部亜寒帯域においても観測されている。今年度の研究により示された、カイアシ類の種による水温への成長率の応答の違いは、これら海洋熱波などが多く発生することが予想される、将来の海洋における低次海洋生態系の応答を予測する上で、重要である。本年度はこれらを含む成果論文を10報発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
地球温暖化に起因すると考える海洋環境の変化は北極海で顕著で、夏季の海氷融解の面積が拡大し、その期間も長くなっている。この海氷融解の拡大は海洋生態系にも大きな影響を与えると考えられ、その基礎的知見となる動物プランクトン、特に北極海の動物プランクトン相に優占するカイアシ類の生活史や生産量に関する知見は重要である。しかし、北極海は冬季に結氷するため、カイアシ類の生態に関する研究の多くは海氷の融解した夏季に行われたものであり、周年を通しての観察に基づく研究は少ない。そのため北極海におけるカイアシ類の年間を通しての生活史や生産量に関する知見は乏しいのが現状である。 またカイアシ類の生産量に関する研究の多くはコペポダイト期のみを扱っており、ノープリウス期までを含めた生活史や生産量の推定を行った例は稀で、その重要性に比べて知見が乏しいのが現状である。今年度は西部北極海に設けた氷上定点にて、周年にわたり採集された鉛直区分試料中に出現した、優占カイアシ類3種を対象として、ノープリウス期からコペポダイト期まで全ての発育段階を含む生活史の解析および生産量の推定を行い、同種に関する他海域の知見との比較および同所的な3種における種間比較を行得ことが出来た。 これら一連の研究は米国のウッズホール海洋研究所との国際共同研究で、今年度は同研究所の研究者との国際共著論文も3報発表し、学会発表も3件行った。国際共著論文3報は、いずれもプレスリリースが行われ、北極海の海洋生態系に関する広い興味から、国立環境研究所の国内ニュースにも取り上げられた。米国ウッズホール海洋研究所からは、日本学術振興会外国人研究者招へい事業外国人特別研究員(欧米短期)においても、山口を受け入れ研究者として研究が行われ、本研究課題の派生的な研究も進み、当初の計画以上の進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
プランクトンの観察定量は、1887年のドイツのVictor Hensenに始まる。この19世紀の当初から、現在使用しているような形の、いわゆる「プランクトンネット」が用いられていた。プランクトンネットは簡便なのであるが、どうしても試料解析に時間がかかるのが難点であった。 海洋生態系生産の基盤である動・植物プランクトンの定量方法に従来の「プランクトンネット採集→顕微鏡検鏡解析」という手法は、どうしても解析に時間がかかり、成果発表までにタイムラグがあり、リアルタイムのモニタリングが困難である。 その点、画像解析装置は種同定が可能なカラー画像がその場で撮影でき、その種同定や正確なサイズ測定も人工知能(AI機能)により短時間に行うことが出来る。いわば21世紀初頭の現在は、19世紀からの「プランクトンネット採集→検鏡」という従来のプランクトン研究のデータ取得が、21世紀型の「現場画像撮影→AI画層解析→3Dモニタリングデータ」という形に変わる過渡期に相当している。 このように現在は、プランクトン研究において、従来型のプランクトンネット採集から画像解析による現場画像データ取得に移行しつつある歴史的時期である。プランクトン画像解析装置のFlowCam(植物用、カナダ製)とCPICS(動物用、米国製)を導入し、今後百年にも耐えうる新しい解析の方法と方向性を確立させられたらと考えている。 またこういった外国製品のエンドユーザーなだけでは、しょせん彼ら研究の後塵を拝するだけである。そのため、導入したFlowCamとCPICSについては、機器という観点から徹底的な分析と検討を行い、カメラの専門家と、AIの専門家と組んで、日本版プランクトン画像解析装置を開発する共同研究を立ち上げる予定である。 これら画像解析に関するパラダイムシフトをもたらすのが、今後の研究の推進方策として挙げられる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、コロナ禍により予定していた海外出張がキャンセルになったためで、次年度に使用する予定である。
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Remarks |
上記は北海道大学からのプレスリリース
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Research Products
(39 results)