2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K20578
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Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
小早川 高 関西医科大学, 医学部, 准教授 (60466802)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 人工冬眠 / 生命保護作用 / チアゾリン類恐怖臭 / TRPA1 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工冬眠技術の開発は、緊急患者の治療可能時間の確保、寿命の延長、宇宙開発などに利用可能であると考えられている。私たちは、自ら開発した極めて強力な先天的恐怖行動を誘発する人工匂い分子「チアゾリン類恐怖臭:Thiazoline-related fear odors (tFOs)」を利用し、マウスに人工冬眠様の状態を誘導したことに加え、脳の酸素要求性を低下させ致死的な低酸素環境での生存が可能になるという驚くべき現象を発表した。マウスの人工冬眠状態は暗所での数日間の絶食、硫化水素刺激、5’-AMPの投与により誘導されることが知られていた。これら条件は、硫化水素が電子伝達系を阻害するなどのように、細胞代謝に直接影響を与え人工冬眠状態を誘導したと考えられている。一方で、tFO刺激による人工冬眠状態は、(1)細胞には影響を及ぼさない低い匂いガス濃度で誘導でき、(2)TFOにより活性化される感覚受容体Trpa1遺伝子ノックアウトにより消失する、さらに、(3)迷走神経のTrpa1陽性細胞の入力を受ける脳幹部の孤束核(NST)から中脳の外側傍椀核(LPB)に接続する経路の活性化でも誘導できた。TFOs刺激は感覚神経の情報入力により脳に備わる低体温・低代謝誘導回路を活性化し内在的な人工冬眠状態を誘導していることが判明した。重要なことに、匂い分子がTRPA1を活性化できることのみでは「感覚誘導性人工冬眠・生命保護作用」の誘導には不十分であり、感覚神経での適切な遺伝子の発現誘導、または、NSTや三叉神経脊椎路核(Sp5)の活性化という条件も満たす必要があることが判明した。この条件を満たすための匂い刺激条件の解明を進めた。さらに、冬眠動物であるハムスター、体重の大きいウサギ、更に大きいブタに対するtFO応答の共通性を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
将来の実現を目指すとされる人工冬眠や、現在実施されている低体温療法では、体温を低下させることで、代謝を抑制することが保護作用を誘導すると考えられてきた。本研究の成果により、低体温や低代謝と保護作用は分離可能であることが明らかになっている。副作用の大きい、あるいは冬眠動物でないと耐性を持たない低体温状態に非冬眠動物を誘導することは困難であるが、本技術による「感覚誘導性人工冬眠・生命保護作用」では、低体温による副作用を回避しつつ保護作用を実現する理論的な可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で解明された「感覚誘導性人工冬眠・生命保護作用」現象の有効な実現手段として、緊急医療においてチアゾリン類恐怖臭を利用する「感覚創薬」概念による医薬品開発を行う。
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