2021 Fiscal Year Research-status Report
「空のニッチ」とそれを利用する空中生活者の超感覚:空中を研究の場として
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20K20587
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
山口 典之 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (60436764)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 さやか 酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (70623867)
樋口 広芳 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター(日吉), 訪問教授 (10111486)
島田 泰夫 一般財団法人日本気象協会, 環境影響評価室 主任技師 (70621077) [Withdrawn]
山内 健生 帯広畜産大学, 畜産学部, 准教授 (00363036)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | ハリオアマツバメ / 遠隔追跡 / ドローン / 飛翔生昆虫 / 空中採食 / 空のニッチ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、(1) 繁殖地内での移動および渡りを追跡するための遠隔追跡、(2) 巣箱内部を撮影することによる繁殖行動モニタリング、(3) ヒナへの給餌物を採取することによる餌となる飛翔昆虫の特定、(4) ドローンによる飛翔昆虫採集ユニットの開発および採集調査、(5) ヒナと親の遺伝子解析による、つがい外配偶調査、(6) 繁殖地の飛翔性昆虫相を知るための昆虫採集トラップ調査、(7) さらに飛翔しているハリオアマツバメ個体を広く探索するための X バンドレーダー調査を実施した。また副次的内容として、既にデザインを確立した本種のための巣箱の利用状況調査、特定外来種アライグマから捕食を防ぐための対策の検討した。 野外調査は新型コロナ感染拡大の影響で分担者の一部が調査地に赴くことでできないなどの影響で十分に実施できなかった面も生じたが、ある程度計画通りに進めることができた。特に、(1) の渡り追跡については学術論文と学会発表をおこない、複数の新聞やニュースなどでその成果が取り上げられた。(4) については採集ユニットの実用化の目処が立ちつつあり、試験飛行では飛翔性昆虫の採取に成功した。2022年度以降に向けて軽量化その他の改良をさらに継続した。(5) については本種の行動生態研究を発展させるため、巣内での生態を理解する目的で実施した。サンプルは十分に得られており、遺伝子解析を進め、萌芽的な結果が得られているが詳細は学術的に未発表であることから省略する。(2), (3), (6) は基礎的なサンプルの蓄積を進め、前年度以前のものと合わせかなりデータが充実している状況である。 (7) は調査を実施したものの、レーダーの解像度の問題などから十分な結果が得られないことがわかってきた。来年度以降は X バンドレーダーに代わり、Lidar を使用する方向で検討を進め予備調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた調査・研究内容は以下のとおりである。(1) 繁殖地内での移動および渡りを追跡するための遠隔追跡、(2) 巣箱内部を撮影することによる繁殖行動モニタリング、(3) ヒナへの給餌物を採取することによる餌となる飛翔昆虫の特定、(4) ドローンによる飛翔昆虫採集ユニットの開発および採集調査、(6) 繁殖地の飛翔性昆虫相を知るための昆虫採集トラップ調査、(7) 飛翔しているハリオアマツバメ個体を広く探索するための X バンドレーダー調査、(8) ハリオアマツバメが空中でどのように食物資源を見つけるかを特定するための、餌となる女王蟻(繁殖虫)を使用した風船係留実験。 (1) については繁殖地での GPS 遠隔追跡は計画通り実施でき、データを蓄積している。渡り追跡についても成功しており、学術論文と学会発表をおこない、複数の新聞やニュースなどでその成果が取り上げられた。(4) については採集ユニットの実用化の目処が立ちつつあり、試験飛行では飛翔性昆虫の採取に成功した。(2), (3), (6) は調査は予定通り進んでおり、基礎的なサンプルの蓄積が進んでいる。ただし(3)については学会発表をしているものの、成果発表にやや遅れがみられる。 (7) は調査を実施したものの、レーダーの解像度の問題などから十分な結果が得られないことがわかってきた。来年度以降は X バンドレーダーに代わり、Lidar を使用する方向で検討を進め予備調査を実施した。 (8) は新型コロナ感染拡大の影響からアルバイトなどの人員の確保が困難な状況であり、2021年度は実施を見送った。ただしこれまでに得たデータを用いて解析を進め、その成果を学会発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に2022年度も継続して野外調査を実施し、データを蓄積するが、複数の調査項目から得られたデータの統合的な解析を進めていく。繁殖地内での GPS 移動追跡から得られた推定採食地点を中心とした、ドローンによる飛翔性昆虫の採取、地上トラップで得られた昆虫相との関係解析、GIS や気象データを用いた環境利用解析を進めていく。渡り追跡から、越冬地の利用空域のデータが蓄積されたら、越冬地での利用環境解析も視野に入れる。ヒナへの給餌物の調査結果は学術論文としての公表を進める。 X バンドレーダーは有効なデータを得られないことが分かったので、射程距離は短くなるものの精細な測定が可能である Lidar を導入する。予備調査ではハリオ個体の飛翔経路や移動速度まで詳細に測定することができた。Lidar 計測により、本種の空中での飛翔特性を明らかにすることを目的とし、野外調査を実施する。 本種が空中でどのように食物資源(飛翔性昆虫)を発見しているかを理解するための風船係留実験を2022年度は実施する。アルバイト等の人員確保を進めている。またこの調査項目に携わる研究分担者 1 名を新たに迎え、新型コロナ感染拡大で教員・学生等の行動制限がかからない限り、実施できる体制を整えている。得られたサンプルサイズ次第で、学術論文の執筆を進めていく。 本種の保護増殖および基礎生態研究を効率的に進めるための巣箱架設を継続して実施する。調査地に侵入している特定外来生物アライグマは個体数を増加させている可能性が高く、自然巣・巣箱ともに捕食の危険性が増大している望ましくない事態となっている。巣箱に関しては設置樹木の周りに電気柵を設置し、アライグマの侵入を完全に防止する。巣箱に設置しているトレイルカメラからは、本種の巣内での行動に関する新規の知見が多く得られており、学会発表により公表する。
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Causes of Carryover |
【理由】本研究の調査盛期である 7 月下旬から 8 月中旬にかけて新型コロナ感染拡大がかなり深刻となり、一部の研究分担者が野外調査に渡航できない事態となった。そのため旅費等に予定した支出をすることができなかった。同じく、新型コロナ感染拡大のため、計画していた風船係留実験に必要な人員(アルバイト)を確保することができず、また分担者の人数確保ができなかったため、この調査項目の実施を見送った。そのため、旅費、人件費、実験に必要であった物品やレンタル費用などの支出をすることができなかった。 【使用計画】いずれの問題も、2022年度の夏は新型コロナ感染状況が緩和され、通常に近い活動ができるという期待のもとで実施を予定している。また、これまでの研究遅延を補償するため、研究期間を 1 年間延長申請することで、予算の適正かつ有効な使用を予定している。
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Remarks |
上記の他にも多数、ウェブページや新聞紙面などで今回の渡り追跡に関する成果が紹介された。
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