2022 Fiscal Year Research-status Report
情報科学的アプローチを活用した精密な機能性分子設計システムの構築
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20K20596
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橋口 隆生 京都大学, 医生物学研究所, 教授 (50632098)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | ウイルス学 / 構造生物学 / 化合物+ペプチド / 感染阻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
阻害剤・機能性分子の開発研究では、主にライブラリー等から実験的に取得する必要があり、目的とする結合・相互作用部位や機能を満たす分子取得には膨大な労力と時間がかかる。従って、標的情報に合わせた精密な分子設計システムは次世代技術として待望されている。そこで、本研究では、標的情報に合わせた精密な分子設計システム構築を行う。エンベロープ(細胞由来の脂質二重膜)に覆われた全てのウイルスは膜融合蛋白質を保持しており、膜融合蛋白質はその性質および構造上、必ず疎水性ポケットを持つ。またこのポケットは機能上必須の役割を担う。本研究では、このポケットを標的として、特異的治療法が存在ない高病原性ウイルス感染症を対象に、化合物とアミノ酸が一体化した融合機能性分子を用いて化合物部分の構造とアミノ酸配列を標的蛋白質の構造情報に応じて最適化することで、ウイルス特異的な融合機能性分子を精密にデザインするシステムを構築することを目的に研究を行った。 本年度は、昨年度に標的となるウイルス膜融合蛋白質の立体構造情報に基づき、改良デザインされたペプチド(Chemically-modified peptide: CM-Peptide)が、ウイルス感染阻害実験において、50%阻害濃度(IC50)を10倍以上向上させたメカニズムを理解するため実験を実施した。具体的には、血清成分下での分解耐性試験や表面プラズモン共鳴による結合・解離定数測定、精製蛋白質との結合状態での熱安定性試験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も昨年度に引き続き、ウイルス特異的な融合機能性分子を精密にデザインすることを目的に以下の実験項目を行った。 (1)構造に基づくCM Pepのコンピュータ設計:ウイルス膜融合蛋白質の立体構造情報に基づき、3D構造上の疎水性ポケットに対してCM Peptideのコンピュータ設計を行った。昨年度からの計算手法の改善として、Rosetta・PatchDock・GROMACSを用い、フォールディングと配列の最適化を同時に実行した。さらに、作製したCM peptideの性状を理解するためにMD計算を行った。 (2) CM Peptideの合成:ウイルス膜融合蛋白質の立体構造情報に基づきコンピュータ設計したCM Peptideを標的蛋白質との結合スコアに応じて順位付けし、ウイルス膜融合蛋白質とCM Peptideの複合体モデル構造として相互作用を評価・解析したので、昨年度に続き、これらの候補分子を順次合成した。さらに、本年度は実験的にもデザイン・合成を実施し、ヒットしたCMペプチドを誘導体展開した。 (3) 1回感染型ウイルスを用いたケモペプチドの感染阻害能解析:設計・合成したCM Peptideを用いてのウイルス感染阻害実験を行った。糖蛋白質Gを欠損した水疱性口内炎ウイルス(VSV-⊿G))表面にウイルスの膜融合蛋白質を保持した1回感染型(複製できないタイプ)として扱った。この1回感染型ウイルスにはEGFPが組み込まれているため、設計・合成したCM Peptideによる感染阻害効率を蛍光顕微鏡下で測定することができた。また、麻疹ウイルスに対し、分子デザイン前の従来型に比べIC50が10倍以上向上したCM Peptideをもとに、研究項目(2)で誘導体展開した候補を用いて、感染阻害実験を行った。 実験的な手法によるペプチド合成に当初想定以上の時間がかかったため、実験部分の項目が少し後ズレした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も今年度に引き続き、以下の項目について実験を実施し、研究を推進する。 (1)構造に基づくCM Pepのコンピュータ設計:ウイルス膜融合蛋白質の立体構造情報に基づき、3D構造上の疎水性ポケットに対してCM-Peptideのコンピュータ設計を引き続き行う。その際、Rosetta・PatchDock・GROMACSのソフトウェアの組み合わせも最適化しつつ、フォールディングと配列の最適化を同時に実行し、改善を試みる。また、抗体のミニチュア化や環状ペプチドも取り入れる。 (2) CM Peptideの合成とウイルス感染阻害能解析:ウイルス膜融合蛋白質の立体構造情報に基づきコンピュータ設計したCM Peptideをさらに合成する。また、阻害効率の高いヒット分子をもとに誘導体展開して、低濃度で効果の高い分子へと改良する。異なるアプローチとして、CMペプチドを構造情報に基づき適切な距離のリンカーでつないで多価化することによるデザインと合成も行う。 (3) ライブラリーからのCM-peptideの取得実験:BINDSを通じて新たに供給してもらう新規CM-Peptideライブラリーを用いて、精製蛋白質に結合し、かつ、感染阻害効果のあるCM-Peptideを同定する実験的手法を実施する。実験的に各ウイルス膜融合蛋白質に結合し、かつ、ウイルス感染阻害能を持つCM Peptide配列情報をコンピュータ学習に還元することで、計算と実験の相乗効果を生み出すための結果取得を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行による物流網混乱などで実験に必要な試薬の入手が困難な状況が起きたり、実験的な手法によるペプチド合成に当初想定以上の時間がかかったため、実験部分の項目が少し後ズレしたことにより次年度使用額が生じた。次年度は、今年度に引き続き、(1)構造に基づくCM Pepのコンピュータ設計、(2) CM Peptideの合成とウイルス感染阻害能解析、(3)実験的手法とコンピュータ設計手法の相乗的・補完的なデータ収集のための実験を中心に行い、良い阻害剤が取得できた場合は阻害剤とウイルス膜融合蛋白質との複合体構造解析も進め、研究期間全体での目的達成に影響が出ないように研究を進める。
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