2020 Fiscal Year Research-status Report
サイクロン装置で採取した公共的屋内空間中PM2.5の生体影響と影響決定成分の同定
Project/Area Number |
20K20614
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高野 裕久 京都大学, 地球環境学堂, 教授 (60281698)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 知明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30348809)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | サイクロン / PM2.5 / 公共的屋内空間 / 生体影響 / 影響成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
日常生活において我々が室外より多くの時間を過ごす屋内については、PM2.5の濃度、発生源、成分、その健康影響に関する知見は乏しい。 本研究計画では、『サイクロン技術を適用した先進的装置を用い、種々の公共的屋内空間でPM2.5を採取する。採取微粒子そのものを、抽出操作を加えることなく、細胞や動物に直接曝露し、生体影響を評価する。これにより、当該PM2.5のハザードを同定するとともに、一般大気中(屋外)で採取したPM2.5と生体影響の異同を比較・検討する。一方、金属や炭素、生物成分を中心とする成分分析を実施し、屋外のPM2.5との異同を比較・検討する。また、両粒子について、生体影響と成分の相関解析を行い、生体影響を決定する要因や成分を同定するとともに、粒子間の異同を明らかにする。』ことを最終的にめざしている。 本年度は、初年度として、まず、公共的屋内空間への設置が可能な、小型サイクロンを用いた可搬型微小粒子サンプラーの開発を行った。開発した機器に関する分級性能の評価結果は、Well Impactor Ninety-Six(WINS)インパクターによる分級曲線と同様であり、意図した性能が得られた。本装置の50%分粒径は約0.15~0.3 μm、消費電流は最大約5A、装置サイズは縦横高さがそれぞれ50 cm、重量は約35 kgであり、キャスター付で移動や設置が容易である。2020年9月より試運転を継続し、今も順調に稼働している。一方、成分分析とその可視化について、地下鉄構内で採取したPM2.5および総浮遊粒子状物質(TSP)のラマンマッピング解析を行い、得られたスペクトルをデータベース照合し、成分を推定した。その結果、地下鉄PM2.5やTSPには、酸化鉄、炭素成分や炭酸塩鉱物等の成分が検出された。また、酸化鉄については、化学形態の異なるものが複雑に分布している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々はバーチャルインパクターとサイクロンを組み合わせたPM2.5粒子の新規採取装置(分担者特許)を開発し、屋外の一般大気環境中より採取したPM2.5の生体影響を評価してきた。本計画では、分担者が開発したサイクロン採取装置の小型化、高度化に取り組み、予定通り、ポータブルタイプの装置を開発し、数多くの公共的屋内空間におけるPM2.5採取への適用を可能とすることができた。 これらの機器を、分担者が測定、分析を実施してきた地下鉄構内に加え、他の大型施設等に設置し、PM2.5を採取し、形状および成分分析と曝露実験に供する予定としていた。しかし、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、サイクロン装置を公共的屋内空間に設置することが困難であったため、当該機器による採取計画に遅れが生じた。 ただし、これまで既に、フィルター法で地下鉄構内において採取してきたPM2.5を用い、形状および成分分析とラマン顕微鏡による観察を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)PM2.5の採取と採取装置の改良(奥田担当):サイクロン装置の粒子採取のさらなる効率化に向けた取り組みを継続する。 (2)PM2.5の成分分析、発生源解析(高野、奥田担当):採取したPM2.5中の水溶性イオン成分、元素(金属)成分、炭素成分濃度を測定する(奥田)。また、付着する生物要因として、細菌や真菌成分を測定する(高野)。加えて、これらの成分組成を基に、発生源を解析する(高野、奥田)。一方、共焦点ラマン顕微鏡により、屋内空間と一般大気環境から採取したPM2.5を観察し、両者の形状、成分、構成の異同を可視的に明らかにする(高野)。 (3)PM2.5の生体影響評価(高野担当):PM2.5の健康影響は、呼吸器系、免疫・アレルギー系、循環器系に発現しやすい。また、地下鉄構内で採取したPM2.5に代表されるように、公共的屋内空間のPM2.5は遷移金属を含む可能性もあるため、酸化ストレスを誘導することも危惧される。本計画では、呼吸器系、免疫・アレルギー系の細胞等にPM2.5を曝露する予定とし、1)細胞傷害性、2)催炎症性、3)凝固作用、4)アレルギー修飾効果、5)酸化ストレス等を評価し、一般大気より採取したPM2.5との異同を比較・検討する計画とする。次に、細胞を用いた実験において顕著な影響が観察された系を優先し、病態形成にPM2.5の経気道曝露が及ぼす影響を疾患モデル動物で評価し、メカニズムを解明する。想定される病態は、気管支喘息、呼吸器感染症等である。 (4)影響規定要因や成分の同定(高野、奥田担当):(2)で得た各種構成成分と(3)で得られる細胞、動物個体レベルの生体影響指標について、相関解析を実施する。これにより、影響を規定する要因や成分を絞り込むとともに、一般大気のPM2.5との影響の異同をきたす原因(構成成分、発生源)を明らかにする。
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Causes of Carryover |
バーチャルインパクターとサイクロンを組み合わせたPM2.5粒子の新規採取装置(分担者特許)を開発し、屋外の一般大気環境中PM2.5の生体影響を評価してきた。本計画では、予定通り、分担者が開発したサイクロン採取装置の小型化、高度化に取り組み、ポータブルタイプの装置を開発し、数多くの公共的屋内空間におけるPM2.5採取への適用を可能とすることができた。これらの機器を、分担者が測定、分析を実施してきた地下鉄構内に加え、他の大型施設等に設置し、PM2.5を採取し、形状および成分分析と曝露実験に供する予定としていたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、サイクロン装置による採取計画に遅れが生じた。そのため、当該年度の使用額が計画より減少した。この遅れを取り戻すために、当該額を使用する計画とする。
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