2020 Fiscal Year Research-status Report
脳細胞ネットワークにおける乳酸代謝動学-脳の高次機能や神経疾患の解明を目指して-
Project/Area Number |
20K20631
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
雨宮 隆 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (60344149)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 和幸 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (40462171)
山口 智彦 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 特任教授 (70358232)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | アストロサイト / ニューロン / 解糖系振動 / ミトコンドリア / 膜電位振動 / 乳酸輸送 / 因果性 / 時系列データ |
Outline of Annual Research Achievements |
実験研究では,アストロサイトのエネルギー代謝振動を1細胞レベルで計測するための実験系を構成した。今年度はラット由来のアストロサイト細胞株(IFO50491, JCRB)の単培養系を確立した。この系を用いて解糖系振動実験を行ったところ,振動を示す結果は得られなかったが,新たに解糖系以外にミトコンドリアの関与を示唆する結果を得た。アストロサイトはがん細胞と同様に解糖系を亢進することが知られているが,そのメカニズムは異なると考えられる(Plellerin and Magistretti, PNAS, 1994)。がん細胞は,解糖系最終産物であるピルビン酸をミトコンドリアに取り込む輸送体(Mitochondrial Pyruvate Carrier: MPC)の活性が低いことが知られており,トリカルボン酸回路及び酸化的リン酸化が起こりにくい(Compan et al., Mol. Cell, 2015)。これががん細胞のWarburg効果の大きな一因であり,そのため解糖系振動が起こると考えられる。一方,アストロサイトはニューロンから放出されるグルタミン酸などの情報伝達物質の刺激を受けて解糖系を亢進すると考えられており,MPC活性が低減していることは報告されていない。そこで,細胞外液にグルタミン酸を添加してみたところ,がん細胞で見られたグルコース取り込みを表す一過的な応答が見られたが継続する振動は得られなかった。 数理研究では,必要な時系列データ間の因果関係を解析するための手法を調査し,当初考えていたGranger因果解析をはじめとする8種の解析法を抽出した。ヒト子宮頸がんHeLa細胞の振動データを用いて予備的な解析を行ったところ,Convergent Cross Mapping(CCM)法(Ye et al., Sci. Rep., 2015)の有用性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度,アストロサイトの解糖系振動を1細胞レベルで観察する実験系を整え,ラット由来のアストロサイト細胞株(IFO50491, JCRB)の単培養系を確立したが,未だ解糖系振動は得られていない。アストロサイトが解糖系を亢進することは知られているが,がん細胞のそれとはメカニズムが異なることが考えられる。今年度は,がん細胞の解糖系振動条件を参考に実験を行った。そのため,アストロサイトにおいてはがん細胞のような実験条件では解糖系振動が起こらない可能性がある。がん細胞は,ミトコンドリアのピルビン酸輸送体(MPC)が不活性化しており,そのためピルビン酸がミトコンドリアに入り難い。このため,がん細胞は解糖系を亢進し易いと考えられている(Warburg効果)。しかしなが,アストロサイトのMPCが不活性化されていることは報告されていない。アストロサイトはニューロンからグルタミン酸などの情報伝達物質の刺激を受けて,解糖系を亢進すると考えられている。今年度,アストロサイトの細胞外液にグルタミン酸を添加してみたところ,グルコースの取り込みを示す一過的な応答は得られたが,継続する解糖系振動は得られなかった。このような応答はがん細胞でも得られており,実験条件を精査することでアストロサイトの解糖系振動が得られる可能性もある。なお,グルタミン酸の他にもアストロサイトの解糖系を亢進させる刺激条件があるので,今後それらについても検討していく。また,実際の脳内においてアストロサイトはニューロンと共存している。今年度は,アストロサイト単培養系で実験を行ったが,アストロサイトが解糖系を亢進するためには,ニューロンと相互作用するような条件が適切である可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
先ずは前年度に引き続き,ラット由来のアストロサイト細胞株(IFO50491, JCRB)の単培養系について実験条件を詰める。例えば,グルコースの取り込みを促進するとされるカリウムイオンやマルトース+IGF-1+インスリンを添加した系をはじめ,ミトコンドリアの阻害剤であるアンモニウムイオンなどを加えた系において,解糖系が亢進され解糖系振動が得られるかどうかを明らかにする。 次に,ニューロンとアストロサイトの共培養系について検討を行う。これまでの文献調査などから,マウス神経多能性細胞(MEB5)を候補とする。ニューロンとアストロサイトへ分化誘導を行い,共培養系を確立する。次に,グルコースまたはグルコース+インスリンを添加し,解糖系振動の観察を試みる。また,ミトコンドリアの代謝振動を別途観察する。ミトコンドリアの代謝振動にともない,膜電位の分極が起こるので,電位感受性色素ローダミン(Rh123)等を用いて蛍光観察を行う。 なお,共培養系において解糖系振動または膜電位振動を起こした細胞を同定する必要がある。ニューロンとアストロサイトを形態で正確に識別することは困難であることから,振動実験後に,免疫染色によりニューロンとアストロサイトを識別する。 解糖系振動とミトコンドリアの膜電位振動は,乳酸輸送を介して因果的に起こると予測している。そこで,時系列データの因果性を解析する手法についても別途検討を行っておく。今のところ,生物学的振動のモデルとして良く知られているFitzHugh-Nagumoモデルを用いた検討,または,既に手元にあるがん(HeLa)細胞の時系列データを利用して個々の細胞の振動の因果性について検討を行っておく。 最終的に,ニューロン/アストロサイト共培養系の解糖系振動とミトコンドリア膜電位振動の同時観察を目指し,それらの振動の因果性を明らかにする。
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Causes of Carryover |
実験に使用予定であった生化学試薬一式を購入することができなかったので,次年度に繰り越し,次年度の予算を加えてそれらの試薬等一式を購入し,実験を進める必要が生じたため。また,データ解析にたる実験結果が得られなかったため,データ解析用の予算を次年度に繰り越して利用することが予算の有効利用であると判断したため。
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Research Products
(13 results)