2020 Fiscal Year Research-status Report
天然タンパク質資源の有効活用を目指した機能性マイクロ粒子捕集素材の開発
Project/Area Number |
20K20638
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野瀬 健 九州大学, 基幹教育院, 教授 (10301334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前田 衣織 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (50311858)
友原 啓介 九州大学, 基幹教育院, 助教 (40711677)
巣山 慶太郎 九州大学, 基幹教育院, 助教 (60707222)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 人工網モデル / 天然由来タンパク質 / マイクロプラスチック |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度においては、マイクロ粒子捕集素材の調製を行った。ブタ大動脈およびマグロ動脈球を素材として、タンパク質溶液の調製を行った。従前、動物組織から特定のタンパク質素材を単離するため、様々な調製法が用いられてきた。今回、我々の開発した熱アルカリを用いる抽出法により、脱脂を行った生体組織を可溶化することで、エラスチン(Elastin: E)やコラーゲン(Collagen: C)など、様々な成分を含むタンパク質溶液(ECタンパク質溶液)を調製した。この溶液について、自己凝集能を用いての分画を実施したところ、60℃で沈殿した高分子量画分、溶液であった低分子量画分とに分離することができた。また、前者においては高い凝集能を示す事が明らかとなり、それぞれの活用方法について引き続き検討を行うこととした。ECタンパク質溶液については、分子量の自己凝集に与える影響を調べるため縮合剤による架橋を行った。24時間反応物についてはゲルクロマトグラフィーにおいて早期に溶出される高分子画分に凝集体形成が確認されたが、その他には凝集が見られなかった。このため、より高い凝集能を獲得するため、リンカーペプチドの検討を行った。リンカーペプチドとして、複数のエラスチンペプチドアナログを合成して検討した。中でも、タンパク質鎖間架橋に有用であるウレア型のジカルボン酸型ペプチドを開発することができた。この他にも、3量体、4量体のエラスチンペプチドからなる多量体アナログを調製し、それらの自己凝集能を濁度法を用いて検討した。その結果、タンパク質との化学結合形成に必要な官能基を持った、単量体結合型、2量体結合型のアナログがタンパク質を架橋するリンカーペプチドとして、有用であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が概ね順調に進展していると判断した理由は、以下の通りである。 本年度は、コロナ感染拡大により研究活動等が大きく制限されるなど、かなりの悪状況の中での研究遂行となった。そのような状況の中で、2つの生体素材からタンパク質溶液(ECタンパク質溶液)を調製し、また、それを用いて作成した凍結乾燥物を用いて種々の研究を行うことができた。それらの有効活用法を検討する一環として、クロマトグラフィーによるサイズ分画、タンパク質凝集による沈殿分画、単純な架橋試薬による分子量増加などを検討し、分子量が大きいこと、もしくは、それを人工的に増大することにより温度応答性の自己凝集能も強いこと、強くなることが見いだされた。これは、本研究の基盤となる技術として今後の活用が大きく期待される結果であった。一方、エラスチン由来ペプチドアナログを用いた分子架橋やタグとしての付与についても、さまざまなエラスチン由来ペプチドアナログを化学合成してその中から幾つかの有力候補を見いだした。中でも、タンパク質のアミノ基との架橋反応に用いることが可能な、エラスチン由来ペプチドアナログのアミノ末端をウレア型で架橋した化合物は、分子中に2つのカルボキシ基を有しており、有力な架橋剤候補と考えられた。その他にも、タンパク質との結合箇所を複数持つマルチマーエラスチン由来ペプチドアナログの調製にも成功した。これら本研究により開発・合成された複数の架橋用ペプチドを用いてのタンパク質の分子架橋の実験を開始している。以上の結果から、本研究課題は概ね順調に進展していると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画2年目においては、リンカーペプチドを用いた架橋反応、また、それらによるタンパク質素材の網目サイズの構築とマイクロプラスチック等の捕集に適切なサイズの調整を実施、検討する。そのため、様々な鎖長、もしくは、鎖数を持ったリンカーペプチドを複数デザインし、化学合成して、最も効率的にタンパク質素材の網目サイズを構築できるもの、また、プラスチック粒子をトラップできるサイズの網目構造を形成するものを見いだす。それらのリンカーペプチドの迅速な調製のために、現在、老朽化によりやや動作が不安定な既存の全自動固相ペプチド合成機を更新、新規に購入し、安定的なリンカーペプチドの合成・供給体制を整えることで、研究の一層の推進を図る計画である。さらには、より効果的な網目構造を形成可能なタンパク質素材を広く探索する。また、コロナ感染拡大が収束しない現状(令和3年4月下旬)においては、日々のディスカッションなどをオンライン形式に切り替え、安全を担保しつつ研究・実験時間を確保するようにする計画としている。タンパク質素材の探索においても市販品からの探索を進め、自由な研究活動が行えるようになるまで間の研究の推進を図る。
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Causes of Carryover |
本年度においては、コロナ禍のために学会等が中止、延期、オンライン開催となった。このために、旅費の支出が無くなり、また、学会参加費等の支出も本研究費から生じなかった。これらについては、次年度以降に発表を行うことを計画している。一方で、コロナ感染拡大による行動制限により、研究活動も制限を受けた。特に、研究に参加する大学院学生に対しては、大きく実験時間が限られることとなった。このため、当該年度においては、最大限安全性に配慮し、かつ、限られた時間で年度計画を達成することを主な目的に定め、主に実験スケールを小さくすることでの、実験に要する時間を低減する対応を取った。従って、当該年度、単年度に必要な合成物の調製を行うことができた。しかし、今後に合成物が必要な場合には、再度合成を行うことが必要となった。このため、スケールを小さくしたことにより、試薬、消耗品の使用量も大きく減少し、費用が減額されたが、それらを次年度以降において使用することが必要となった。また、上記のような繰り返しにともなう研究の遅延を最小限とし、研究の進展を図るために、次年度以降に自動合成装置の導入を検討することとした。以上が、次年度使用額が生じた理由と使用計画である。
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