2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K20669
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
西 希代子 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (40407333)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 超高齢社会 / 無縁社会 / 相続 / 財産承継 / 財産管理 / 高齢者法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、所有者不明土地問題、名義人・相続人不明の預貯金の管理等、超高齢社会における財産管理・承継問題の検討を手がかりとして、「高齢者法」という新たな科学・人文融合分野の形成を目指すことを主要目的とし、「無縁社会」克服の糸口を見いだすことを副次的目的とするものである。 本年度は,第一に,所有者不明土地問題を含む高齢者の財産管理・承継問題の正確な現状把握に努めた。法制度のみならず、高齢者の経済・財産状況、遺言・信託等の利用実態等もあわせて、より広く、高齢者と財産に関わる問題状況を分析した。これらの研究成果の一部は,日本私法学会シンポジウムにおいて発表した。 第二に、アメリカの法制度及び政策の調査・分析に着手した。日本の多くの法律はフランス法またはドイツ法をほぼ直輸入したものであり、現在、所有者不明土地問題の研究においてもフランス及びドイツの民法が参照されている。これに対しアメリカでは、そもそも民法という法分野がなく、「物権」という領域において、所有権の意義と限界、信託、土地利用方法、土地収用等、財産に関する問題が総合的に扱われている。何よりも、「高齢者法」という領域が存在し、成年後見制度等の高齢者の生前・死後のための意志決定を支える仕組み、財産管理・承継、住宅に関わる問題から、就労、経済的基盤、医療・福祉制度等まで、高齢者という統一の視点から研究が進められようとしている。これらのアメリカ高齢者法の歴史と課題を概観することで,今後の研究のてがかりを得ることができた。とりわけ,日本法とアメリカ法の高齢者法を取り巻く前提条件の違いに着目し,日本版高齢者法を確立する際に,その核となる内容を整理することができた。これらの研究成果の一部は,後述のように,複数の論文において紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍のため,予定していた夏の海外調査・研究を行うことはできなかったが,文献調査等により,一定の予備知識を得ることができた。その一端は,2023年春に刊行予定の「高齢者法の意義と可能性」戸籍1023号等おいて公表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は,次の2点が中心となる。第一に,高齢者法の各論について,昨年度までの検討を踏まえて,アメリカ法を参考にしながら精査し,確定する。アメリカ高齢者法では,高齢者の法的地位・年齢差別をめぐる問題,年金・社会保険等の所得保障,健康保険等の医療保障,介護,長期ケア保険,高齢者虐待(経済的虐待も含む),終末期医療,リビング・ウィル,(判断能力を失う前の)事前指示等の医療における意思決定,判断能力を失った場合に代わりに決定を行う医療代理人制度,所有・賃貸,安全性を含む住宅問題,成年後見制度,持続的代理権,共同所有,撤回可能信託,遺言等の財産管理・承継が主要項目となっている他,近時は,高齢者の離婚や祖父母の孫との面会交流等の高齢期の家族問題 ,不法行為と高齢者,高齢消費者の保護,刑法と高齢者等をとりあげるものもある。比重は異なるとはいえ,日本の高齢者法の各論も類似の内容となることが予想される。その上で,それぞれの項目の具体的内容の原案を作成する。 第二に,高齢者法の総論について検討を進める。アメリカ高齢者法は,実務主導であり,実際に高齢者が遭遇しうる問題とそれに対する弁護士の対応を柱として構築されてきた。そのため,高齢者法の総論としては,高齢社会の現状,高齢者の特徴・ニーズ,高齢者の代理人(弁護士)の専門家責任・倫理等が扱われる。しかし,日本において,一つの学問領域として高齢者法を確立し,その体系化を図るためには,それらにとどまらず,高齢者法の理念や目的を提示する必要がある。差別禁止,多様性への配慮等,様々なものが考えられるが,それらの根拠等も含めて,明確にすることを試みたい。これは,アメリカをはじめ,高齢者法に取り組んでいる研究者等との議論を通して可能となると考えられるため,夏または冬に渡米したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため,海外での調査研究及び研究報告ができなかったため,次年度に繰り越さざるを得なくなった。 次年度は,夏または冬に渡米して,アメリカ高齢者法の最新の動向を確認したうえで,研究を総括し,これまでの研究成果を1冊の本にまとめて刊行する予定である。
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[Book] 生と死の民法学2022
Author(s)
深谷 格,森山 浩江,金子 敬明,西 希代子
Total Pages
598
Publisher
成文堂
ISBN
9784792327873