2020 Fiscal Year Research-status Report
中世以降の漆黒と平蒔絵材料を識別する自然科学的手法の確立
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20K20679
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
神谷 嘉美 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 助教 (90445841)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関根 由莉奈 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (00636912)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40409462)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 桃山文化期 / 平蒔絵 / 東南アジア交易 / 漆液 / 文化財分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本助成研究の初年となる本年度は、材料の再現復元のための国内外での調査を中止せざるを得なかった。そこで、本研究の具体的な成果をすみやかに公開することを進め、大航海時代に日本国外へ輸出された初期の南蛮様式の漆器についての分析成果の発表が中心となった。 ・新型コロナウィルス感染拡大により紙面開催された文化財保存修復学会第42回大会では、イエズス会紋章の入ったIHS書見台(類南蛮漆器)に関する科学分析と保存修復の成果について発表した。塗膜に対するPy-GC/MS分析やストロンチウム同位体比分析により、ベトナムで製作された可能性が高いことを提示できた。 ・南蛮漆器に使用された「平蒔絵粉」は、目視や実態顕微鏡観察を用いた従来研究の手法では微小すぎて形状を把握することは困難であった。しかしながら、走査型電子顕微鏡を併用することで、実際には「鑢粉」と「消粉」が混在することを具体的に提示することを見いだしている。この研究成果は、漆を科学する会の会報誌に掲載され、石川県輪島漆芸美術館において開催されたセミナーで、安土桃山時代と現代の平蒔絵粉の形状分析について発表し、蒔絵関係者らと意見交換を行った。 ・桃山文化期の漆液をめぐる東南アジア交易について検証してきた研究分担者の成果は、日本文化財科学会第14回学会賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学会等でいくつかの研究成果について公開することを進めた一方で、材料の再現復元のための調査に遅れが生じてしまった。当初は基準となる作例について国内外で調査しながら研究者らと意見交換を行っていく計画であったが、新型コロナウィルスの感染拡大により海外調査だけでなく国内での現地調査は中止となり、将来的な共同研究の実施を視野にいれた協議等ができなかった。そのため、調査結果に基づいて調製する予定であった分析用サンプル作製に取り組むことが困難となってしまったことから「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の遅れを取り戻すため、感染状況に注視しつつも国内における調査を進めていきたい。すでに得ている南蛮漆器の分析資料に関しては、初年度に検証し始めつつも手法に課題が残っていた粒度解析等を継続して試みながら、新規データの収集を実施する。次年度からは粒度解析に関する装置が本格的に稼働できる計画のため、既分析資料をより仔細に観察・分析することで、それぞれの形状や分布を比較して特徴を見いだしたい。 また本研究の代表者・研究分担者による研究推進のための検討会議を定期的に行いながら、成果について取りまとめ、国際科学誌等への論文投稿作業を進めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの世界的な感染蔓延によって、材料の再現復元のために計画していた国内外での調査や関連する研究者らと意見交換等が全く実施できなかったため、旅費等に計上していた使用金額は繰り越しとなった。次年度は新型コロナウィルスによる感染状況に注視しながらも、実行可能な範囲で国内での調査は実施していきたい。なお旅費での使用計画だけでなく、国内での調査の前後にPCR検査や抗原検査を実施するための費用も含めて、柔軟に調整する計画である。
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Research Products
(10 results)