2021 Fiscal Year Research-status Report
中世以降の漆黒と平蒔絵材料を識別する自然科学的手法の確立
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20K20679
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
神谷 嘉美 金沢大学, 歴史言語文化学系, 助教 (90445841)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
関根 由莉奈 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究職 (00636912)
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (40409462)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 黒漆 / 漆着色 / 加速劣化試験 / ウルシオール / 鉄イオン / XAFS |
Outline of Annual Research Achievements |
古くから黒色に見える漆膜は様々な場で使用されてきた。しかし黒色の塗膜を作るためには複数の塗装技術が存在していながら、それらの手法は漆文化財において区別されることはあまりなく「黒漆」と一括に称されている。さらに現在主流となっている鉄分との化学反応によって「黒漆」を作る手法については、江戸時代の後期頃から登場したとも言われている。ただその実態は不明瞭で、具体的に鉄分がどのような働きをするのかも解明されていない。一方、複数の技法による試験片を作製して紫外線を照射する加速劣化試験を行うと、劣化前の状態が近似していても劣化後の様相には差異があるとわかっている。これまでの研究は、木胎に漆を塗布する文化財を想定して実施してきたが、2021年度は金工品の漆着色法について同様の研究アプローチを試みることにした。漆塗膜の硬化プロセスが酵素酸化重合と熱重合というように違っているが、塗装仕様の異なる7種類の試験片を作製して加速劣化試験を行った。前年度から福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館と奈良国立博物館の協力を頂きながら、滋賀県聖衆来迎寺蔵の三具足の熟覧調査を重ねており、香炉の一部の紋様を再現した試験片を被塗物として漆を焼き付けた。本成果については、2022年6月の文化財保存修復学会第44回大会にて発表予定である。さらに、X線吸収微細構造解析(XAFS)法を用いて黒漆膜を測定した結果、生漆や漆膜中の鉄イオンの化学状態を分析できることが明らかになった。XAFSを用いて黒漆膜中の鉄の配位状態や価数を分析することで、黒漆形成における鉄の重合過程や紫外線による劣化のメカニズムについて議論できる可能性がある結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の拡大により感染拡大地域への移動ができず国内調査や装置を借りての分析は当初の計画通りには実施できなかった。一方、前年度から滋賀県聖衆来迎寺所蔵の三具足の熟覧調査を行ってきた成果を取り入れながら試験片を作製し、加速劣化試験を実施した結果、香炉の表面状態とかなり近似する着色法を見いだした。モデルとした三具足は重要文化財に指定されているため、塗装工程についてはあくまでも目視上で類似しているとしか言えないものの、400年以上前の作製当時に用いられた可能性が高い黒色化技術を推考する材料を得たため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本助成研究最終年度となる来年度は、X線吸収微細構造解析(XAFS)法を用いて、複数の黒漆塗膜における構造をXAFSやシミュレーションにより分析する計画である。またXAFSによる黒漆の測定データと理論計算によるシミュレーションにより、膜中の鉄の配位状態や価数を調査して、黒漆形成における鉄分の働きや紫外線による劣化のメカニズムの解明に向けた研究を推進したい。併せて、生漆中における鉄の働きについて調査した成果をもとに、論文を作成する。なお延期していた調査は、新型コロナウィルスの状況に注意しつつ進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
世界的な新型コロナウィルスの感染拡大によって、感染拡大地域への移動ができず調査や装置を借りての実験が実施できなかった。また、半導体部品の不足によって当初購入を検討していた部品が入ってこない状況になったこともあり、次年度に使用額が生じることとなった。最終年度となる来年度は、新型コロナウィルスによる感染状況に注視しつつも、実行可能な範囲で調査等を行いたい。装置を借りての実験となるが、X線吸収微細構造解析を主軸として研究を推進する計画である。
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Research Products
(7 results)