2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study on New Moral and Vegetarianism in Contemporary Asia
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20K20684
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
長谷 千代子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (20450207)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 菜食主義 / 宗教文化 / アニミズム / 環境主義 / 健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍のため、当初予定していた国際宗教史学会発表(8月、ニュージーランド)、東アジア文化人類学会発表(10月、台湾)、9月と2月の海外調査(シンガポールと中国)が中止となったため、主に国内での調査に専念した。 まず、文献調査では日本での菜食思想の源流や、明治以降の欧米流菜食主義の流入の過程、台湾での伝統的な菜食主義と近代的な「人間仏教」の結びつきなどを明らかにしながら、引き続き調査中である。歴史調査の目標は、様々な菜食主義思想の影響関係を明らかにすることだが、アジアにおける菜食主義の展開については、仏教や東洋思想の近代化という視点から見ることによって、包括的な理解が得られるのではないかと予想している。 次に、11月21日から24日にかけて、小樽商科大学にて学術変革領域Aの公募のための研究組織準備会議に参加した。これは九州大学大学院比較社会文化研究院の研究者が中心となり、小樽商科大学その他の大学の研究者と連携して計画している研究「ゆらぎの場としての水循環システムの動態的解明を通じた水共生学の共創(仮題)」の計画について話し合う会議である。菜食主義者がしばしば水を含めた環境問題に関心を示すことから、農学や環境学の研究者も参加するこの研究プロジェクトに参加することで、研究の視野と研究者のネットワークを広げられると考えた。 小樽出張の機会を利用して、小樽や札幌の菜食主義レストラン4軒をまわってインタビュー調査も実施した。菜食主義者のライフヒストリーを集めることが目的である。まだ調査数が少ないので、特段の結論を述べる状況にはないが、菜食の理由としての健康志向と動物愛護の思想には関連性があると考えるべきではないかという感触を得ている。 唯一発表できた日本文化人類学会(5月30日、オンライン)では、菜食主義思想の一端を担うアニミズム思想における霊魂認識について発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍のため、海外調査や国際学会での発表が中止になったこと、オンライン授業の対応に追われたことなどが大きな理由である。もともと立てていた目標は、①菜食主義の歴史研究、②功徳思想とアニミズム思想の菜食主義思想への影響の見定め、③功徳思想とアニミズム思想の菜食主義的実践への影響の見定め、④積徳思想やアニミズム思想に着目することの是非を見定め、ほかの分野(経済学や生態学など)との共同研究の可能性を考えること、であった。 このうち、①は初年度のうちにもう少し概容の把握ができる状態にしておきたかったが、まだ全体像を自分なりに把握したという実感を得ていない。②③④については、別の見方を導入したほうがいいのではないかと感じている。もちろん、功徳思想やアニミズム思想も大事なのだが、インタビュー調査をしているうちに、それらを別々のものとして捉えるより、利己的と見られがちな健康志向や、伝統宗教の近代化の動きなどにも着目しつつ、それらの関係性、特に個々人がそれらの思想や運動を自分なりにどう消化し、折り合いをつけているかを見るべきではないかと感じている。その意味で、ライフヒストリーを収集しながら、そのあたりの本人の解釈方法を明らかにしていくためには、インタビューという手法は有効であると感じている。 なお、ほかの分野との共同研究の可能性を探るのは、もっと後の段階でのことと考えていたが、思いがけず「水の共生学」研究の準備組織から声をかけていただき、初年度から研究ネットワークが広がることとなった。とはいえ、まだ研究の方向性が固まっていないので、早く確かな方向性を見つけて、主体的に共同研究に関われるようになることが急務だと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍が、まだしばらく続くことを想定し、今年も国内調査を優先する。 まず、文献調査によって近代的な菜食主義思想の展開を、宗教の近代化という観点から総括することを試みる。 次に、国内のめぼしい菜食主義レストランや菜食主義推進団体などで、インタビュー調査を推進する。同時に、ジビエ料理店や、菜食主義を放棄した人々など、菜食主義に批判的な人々にもできるだけ接触し、インタビューを試みたい。また、日本にも仏光山や一貫道など、台湾で積極的に菜食主義を推進している宗教団体の支部があるので、そうしたところでも調査を行いたい。 学会発表としては、5月末の日本文化人類学学会で、中国における宗教の近代化と「宗教文化」という概念の出現について発表する予定である。例年秋に行われている東アジア文化人類学会が開催される場合は、中国の菜食主義レストランについて、以前行ったネット調査の資料があるので、分析を加えて発表したい。できればこの成果は本年中に英語論文として執筆し、国際学術雑誌に投稿できる状態にしたい。 「水の共生学」の学術変革領域Aへの申請が通るかどうかまだ分からないが、準備会議で得られた他領域の研究者とのネットワークを大事にして、引き続き共同研究の可能性を探っていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、予定していた2度の海外調査(台湾、中国)と2度の国際学会発表(IAHR、EAAA)出張がなくなり、国内調査出張も1回しか実施できなかったことが最大の理由である。本年度もコロナ禍が続くことが十分想定されるため、当面は文献調査と論文執筆、国内での調査を優先せざるを得ない。それでも本来予定していた予算が順調に消化できるかは未知数である。 国内調査としては、台湾仏光山の日本支部がある山梨と東京、一貫道の支部がある東京、水共生学関連で縁ができた札幌・小樽・釧路、中華街のある神戸・長崎、そのほか九州各地などを想定している。 2年ほど前に予備調査として行った、中国各地の菜食主義レストランについてのインターネット調査に分析を加え、英語論文として執筆する際に、10万円程度の英文校正料の使用も想定される。 国際学会にも積極的に参加したいが、オンライン開催となる可能性もあり、その場合は出張費は不要となると考えられる。
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