2021 Fiscal Year Research-status Report
博物館標本胞子を用いた絶滅集団の復元:簡易生存識別法と標本管理法の開発
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20K20715
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
志賀 隆 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (60435881)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 将 新潟大学, 人文社会科学系, 特任准教授 (30624738)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 博物館 / 植物標本 / 胞子 / シダ植物 / 車軸藻類 / テトラゾリウム染色 / 発芽試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
シダ植物の博物館標本胞子の生存可能性を評価するために、昨年度標本胞子の発芽試験を行った種に加えて、新たにスギナ(トクサ科)、オオハナワラビ(ハナワラビ科)の2種を研究対象種に加えた。2021年度は、大阪市立自然史博物館と新潟大学の植物標本庫に収蔵されている標本よりそれぞれ胞子(以下、標本胞子と呼ぶ)を新たに得た。 また、胞子の生理活性を評価するために、オオハナワラビ20標本、スギナ18標本、ゼンマイ19標本に標本胞子に対して、MTTを用いたテトラゾリウム染色試験を行った。オオハナワラビは、標本作成からの経過時間が183ヶ月(15年)の胞子の生存率が85.5±1.7%と最も高く、446ヶ月(38年)経過した胞子の生存率が37.9±4.2%と2番目に高かった。それ以外の年代の胞子は生存率が10%を下回っており、6標本においては0%であった。スギナやゼンマイでは、標本作成からの経過時間が30年から40年にかけて生存率は緩やかに減少した。しかし、各種の幾つかの古い標本では過剰に染色される胞子も確認され、胞子の生存を過剰評価している可能性が考えられた。 車軸藻類については、昨年度に続き野外採集を行い発芽試験のための標本を増強するとともに、昨年度と今年度作製したシャジクモの標本(群馬県水田産1集団、新潟県ため池産2集団)より卵胞子を採取し、発芽試験(標本卵胞子およびコントロールデータのための非標本卵胞子を各50粒播種、6反復実施)を行った。その結果、新潟県産2集団の標本卵胞子において発芽が認められた(0.3±0.82%~2.7±0.01%)。これまでの研究で卵胞子に乾燥耐性があることは一部の種で示されていたが、標本の卵胞子に着目して発芽を確認したのは本研究が初めてである。今後、車軸藻類においても博物館標本の利用可能性を検討する価値があることを示すデータが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の感染拡大にともない、野外調査や標本胞子取得の為の出張が制限されたことにより、当初の目的達成水準よりも下回っている。しかし、シダ植物、車軸藻類共に一定程度の成果が得られていることから、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
シダ植物については、これまでに収集したオオハナワラビ、スギナ、ゼンマイの標本胞子に加えて、フユノハナワラビの標本胞子を新たに収集し、発芽試験と染色試験を行う。標本胞子の発芽試験は、当年胞子を用いた予備試験によって最適な環境条件を明らかにしたうえで実施する。テトラゾリウム染色試験に用いる試薬はこれまではMTTを用いていたが、テトラゾリウム塩の種類と試薬に浸す時間、胞子そのものを使用するか、破砕して得た細胞質を使用するかなど、細かい条件について検討を行う。 車軸藻類については、本研究内でこれまでに採集した車軸藻類の標本をもとに、系統横断的な発芽試験(候補種:シャジクモ、カタシャジクモ、ケナガシャジクモ、オトメフラスコモ、ハデフラスコモなど)を実施し、発芽率の種差を明らかにする。また、シャジクモにおいて今年度実施した試験環境(25℃一定温度)とは異なる環境下(温度上昇系など)での発芽試験を行い、標本卵胞子の発芽において播種環境を検討することの重要性を探る。これらに加え、テトラゾリウム染色試験による卵胞子の生存判定を試み、簡便な生存可能性評価の方法を開発する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染拡大のために、当年胞子、標本胞子を得るための出張が大幅に制限された。そのため、旅費を中心とした予算を消化することできず、次年度使用額が生じた。 2022年度は、2021年度に実施できなかった野外調査・室内調査を行う予定である。しかし、2022年度もCOVID-19の感染拡大により、十分な野外調査・室内調査のための出張を行うことが出来ない可能性も考えられる。その場合、出張予定地域においてアルバイト等を雇用し標本胞子を取得し、旅費として使用予定の費用を人件費・謝金の不足分に充当する。
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