2023 Fiscal Year Research-status Report
「災害報道3.0」の課題を整理するーデジタル時代のジャーナリズム再定義に向けて
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20K20790
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
奥村 信幸 武蔵大学, 社会学部, 教授 (00411140)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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Keywords | ジャーナリズム / 災害報道 / 緊急災害報道 / 情報のエコシステム / 情報の生態系 / デジタル・ジャーナリズム / フェイクニュース対策 / ニュースメディアの役割 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)2023年度は特に災害時のミスインフォメーション、それらを打ち消し安全・安心を取り戻すジャーナリズムの機能に着目して情報収集を行った。世界のファクトチェッカーの会議であるGlobal Fact10(6月ソウル)に出席し各国の実情について意見交換を行い、それらをYahoo!エキスパート記事(https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/okumuranobuyuki)に6本の解説論説を掲載した。 2)メディアの現場で働く記者らによる勉強会は2023年度に6回(隔月)開催し、災害時の大きな情報エコシステム、デジタルツール(デジタルツイン技術、マッピング技術、データジャーナリズム)等の先端テクノロジーの紹介や分析を行った。特に政府が地方自治体の情報を集約して把握しようとシステム開発を進めているSIP4Dなどの中にニュースメディアの役割が全く触れられていないことを問題視、関係者のヒアリングや今後のニュースメディアの課題について論考した他、「デッカイギ」(行政DXに関する会議、2024年1月東京都大田区)でネットワークを拡大しさらに考察を進める所存である。 3)2024年元旦の能登大地震・津波の報道に関して、勉強会など多方面で意見交換や発信を行っている。Yahoo!エキスパート記事では、2本の論考を発表し、テレビの速報とデジタルの発信について考察した一方、スローニュースのライブイベントにゲスト出演し、司会者の熊田氏と議論するなど、発信の場を増やしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
米英での調査が遅れている。(原因)①米ミズーリ州コロンビア市、および②英国BBCとも、新型コロナ後の組織改編などによる担当者の交代。①は窓口であった市長が交代し、引き継ぎがまったくなされなかったため、ミズーリ大学の知己を頼り、そのルートで再度スケジュールを調整している。②は担当部署の消滅による事態。従来はテロや紛争と災害や事故現場を同列とみなし、一括して管理していたが扱いなどにも変化があったもようのため、対策を練り、こちらは正面玄関の広報からアプローチをするつもりでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
能登地震に関するデジタル報道を概観すると、政府は膨大なデータを抱え込み整理が追いつかず、アウトプットが貧困であった一方、ニュースメディアがさまざまな工夫を行い、地図とも連動した多様なサービスを展開できる能力を発揮している状況が読み取れる。そのような状況を踏まえ、今後発展させた研究を視野に入れ、以下のアジェンダを中心に分析や考察を進めていく所存である。 ①オープンデータのポリシーや態勢:現在の政府の考え方は、「まずデータの集積と整理、その後判断選別して公開」というものだが、スピードに決定的な欠陥が生まれている。自治体レベルで内閣府報告と同時に発表はできないか、あるいは不完全なデータであっても一定の資格を賦与したメディアとシェアできるなどの対応のために可能な方策を考える。 ②メディアと行政機関の協力補完:特に甚大災害などの場合、発見されない被災地をメディアが先に見つけたどり着き報道したり、避難所のトイレや障がい者の受け入れなど細かな情報はメディアの方が正確な情報を持っていたりする。すべてを包含した情報共有のネットワークをいかなる場に、誰のイニシアチブで構築し得るのかというアイディアについて一定の提言が得られるよう議論していく。 ③メディアの協力関係:自治体ーメディアとの連携にはメディア業界で、フリーランスも含めて競争原理を棚上げにして協力することが不可欠になる。どのような条件のもとに可能になるか、表現の自由の制限を最小限にしつつ実現するための方策を議論していく。 ④いわゆる「フェイクニュース」対策の強化:日本ではいわゆるプラットフォーム、ソーシャルメディアへの規制が効果的に行われていない。今後起き得る可能性がある大規模なコンテンツ・モデレーションと政府、行政、メディア、市民などのステークホルダーの権利や役割などについて整理し、上記の協力関係との両立が可能になる形を編み出していきたい。
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Causes of Carryover |
海外のヒアリング、調査先が、コロナ後の担当者変更等で引き継ぎ等がうまくいっておらず、交渉に時間がかかった。 また、研究代表者(奥村)が総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」委員に就任したことで、準備会合などのためスケジュールが限定されてしまったことも一因である。2024年度に日程や訪問先を再調整の上、現地調査を行う旅費や情報収集のためのGlobal Fact等への参加費用として使用する計画である。
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Research Products
(9 results)