2021 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの中等教育を視野においた漢文学習交流プログラムの創出
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20K20806
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
甲斐 雄一郎 筑波大学, 人間系, 教授 (70169374)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 漢詩 / 中学校国語 / 鑑賞 / 日中漢文教育の比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
漢詩や論語など中国の古典は、現在日本はもとより中国、台湾などにおいて教育課程に位置付けられている。本研究はこの点に着目し、それぞれの国や地域の中等教育における漢文語の学習成果の交流を通して、漢文学習に対する学習者の学習動機を高めるとともに、自らの 受け止めを相対化し、学習の意味を拡張する態度と方法を獲得させるプログラムの創出を目的としている。 漢文学習を国境をこえた拡張・環流のダイナミズムに位置づけることによって、学習者自身の「見方・考え方」に深まりを促すとともに、日本の児童生徒が国境をこえた同世代の児童生徒の「見方・考え方」に関心を持つ機会となることが期待される。 2021年度は浙江省の台州学院付属中学校と筑波大学附属中学校、それぞれの国語担当教員の協力を仰ぎ、zoomを用いた打ち合わせを重ねた上で、生徒間における漢詩の学習の交流を実現することができた。漢詩は両国において朗唱(朗読)と鑑賞の学習において共通している。そのうちとくに鑑賞の在り方を対比するために、相互の打ち合わせを経て、李白「黄鶴楼送孟浩然之広陵」、王維「送元二使安西」。張継「楓橋夜泊」、崔塗「春夕旅懐」、白居易「問劉十九」、江馬細香「冬夜」の六編を選定し、双方に共通の手引きを用意し、完成させた鑑賞文を翻訳を経て相互に閲覧した。その結果、日本、中国それぞれの中学生が、鑑賞に際しての自らの特性を理解するとともに相手国の鑑賞方法の特性を理解したことがうかがわれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた相互に訪問して実際に授業を行うことは断念せざるを得なかった。しかしzoomを用いることによって、相互に入念な打ち合わせを行い、共通のゴールを設定してそれぞれで授業実践を行い、その成果を交流することができた。 具体的には日本の中学校(筑波大学附属中学校)と中国の中学校(台州学院付属中学)の教員の全面的な協力を得て、以下の作業を行った。 (1)日本、中国、それぞれの中学校教諭によって、中学2年生段階の中学生にとって①朗読(朗唱)用、②鑑賞用に適切と考えられる漢詩6編ずつを協議し選択した。(2)①朗読(朗唱)用の漢詩についてはそれぞれで朗読(朗唱)を行い、その様子をビデオに収め、それぞれで解説を加えたあと、相互に鑑賞しあった。なお、本研究では②の鑑賞文の交流を主たる内容とする。(3)②鑑賞用の漢詩については一人称の視点による鑑賞ということで統一し、それぞれの鑑賞文を翻訳した。(4)翻訳した鑑賞文を両国の中学生がそれぞれに読みあい、感想を交流した。(5)感想交流の結果、両国の中学生はそれぞれに他者の鑑賞の方法の特性を理解すると同時に自らの鑑賞の方法の特性についても理解した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎えるため、本研究の課題としての「東アジアの中等教育を視野においた漢文学習交流プログラムの創出」についてまとめる。具体的には①文集の編集・刊行、②交流範囲の拡張、③学習内容に関する知見の公開である。 ①の文集の編集・刊行としては日本、中国それぞれの中学生の鑑賞文、および鑑賞文に関する感想文を集めることができたので、それを日本・中国双方で閲読可能な文集としてまとめる。②では①で作成した文集を資料として日本、中国、さらには台湾などにおいて、やや範囲を広げた学習交流を行い、それによって仮説的に抽出した相互の学習内容の特性について修正を加えるとともに、それぞれの国や地域ごとの鑑賞のための視点を鮮明にする。③においては相互の視点を用いた学習に取り組むようにし、その成果についても交流を試み、本研究の課題としての学習交流プログラムの基礎的条件を明瞭にすることをめざし、その成果については関係学会の紀要等に投稿する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、3回以上計画していた、中国、台湾への渡航と現地における授業交流の実現を断念せざるをえなかったことにある。本研究で請求していた助成金の一部はそのための旅費として計上していたため、次年度においてもこの目的でそれを用いることができる可能性は高くはない。 しかし大学生対象であればオンラインによる交流がある程度は可能であり、中学生対象であっても教員相互はオンラインによる交流が可能であり、生徒間であってもビデオや文集を通しての交流は可能であることがわかったために、今年度からその方針に基づいて実践してきている。次年度においてもその方針で遂行し、成果の交流のための印刷費、また通訳や翻訳などへの金額として使用することとしたいと考えている。
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Research Products
(2 results)