2020 Fiscal Year Research-status Report
Eastern Europe International Development through the Power of Budo Education
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20K20809
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
酒井 利信 筑波大学, 体育系, 教授 (40281711)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 東欧 / 教育力 / 民族紛争 / 元兵士 / 精神障害の克服 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東欧における未解決諸問題に対して武道の教育力により貢献することを目的とするものである。この場合の教育力とは、“実践を通した精神面の成長”つまり“武道の身体的な修練を通して、人として立派な心(精神)を育む”ものと考えられる。これには、「身体→心」という心身統合的なロジックが根底にある。教育としての武道に求められている精神性には、倫理道徳的精神性(立派な人間であるための心)と芸道的・求道的精神性(相手と対峙した時の心)の二つあることが指摘されている(中林1988、寒川2011)。本研究における、東欧に対する「貢献」とは、武道の教育力のExample(見本)を発信することである。 研究方法としては、以下の手順を踏む。Ⅰ.東欧における未解決問題と対象者の把握:「青少年の道徳意識の低下」「 民族紛争後の元兵士の精神的障害」について、現状と対象者の実態を把握する。Ⅱ.現代社会における倫理道徳的精神性の解明:武士道思想を分析することにより、日本人全体の武士道思想を解き明かし、これを人類に普遍的な倫理観に置き換えてロジックを構築する。。Ⅲ.現代社会における芸道的・求道的精神性の解明:この問題に示唆的な佚斎樗山の著作の分析および武道における宗教性や外国人の日本論からアプローチする。 本年度は、Ⅰとして1991年から1999年まで東欧において勃発したユーゴスラビア紛争(欧州では南スラブ戦争と言う)に代表される民族紛争を経験した元兵士に協力要請し快諾の上、既にある音声資料および新たに記した手記の提供を得た。Ⅱとして近代武士道の分析考察を行い学会発表および論文を投稿した。Ⅲとして武道の宗教性および外国人の日本人論について学会発表をし、前者については原著論文として学会誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
筑波大学体育系倫理委員会に倫理審査申請をし承認を得ている。 本年度は、先ず、従来非常に分かりにくいといわれているユーゴスラビア紛争(南スラブ戦争)について、東欧在住の研究者とともに、「1. 1991-1995年:スロベニア・クロアチア・ボスニアヘルツェゴビナとセルビアの対立(スロベニアの10日間戦争91、クロアチア戦争91、ボスニアヘルツェゴビナ紛争92)」「2.1995-1999年:コソボ・アルバニアとセルビアの対立(コソボ戦争96-99)」「3. 1999-2006年:NATOとセルビアの対立」の3期に分けて概要把握を行った。 東欧における未解決問題と対象者の把握(Ⅰ)として、当該元兵士より、既に2006年に行われた戦争体験に関わるインタビュー音声の提供を受け、これをテープ起こしをすることにより分析資料として文章化した。また、本人より、生い立ち、戦時中の状況、戦後の精神障害、武道を通した精神生涯の克服についてのレポート(英文)の提供を受けた。 武道の精神性の解明(Ⅱ・Ⅲ)として、近代武士道の分析考察を行い日本武道学会において「近代における武士道思想に関する一考察-明治20年代の内藤耻叟・松本愛重・重野安繹に着目して」として口頭発表をし、更に「武道学研究」に原著論文として投稿し受理された。Ⅲとして武道の宗教性および外国人の日本人論について学会発表をし、前者については「身体運動文化研究」(26-1)に原著論文「剣術における神道的宗教性に関する一考察-新当流を中心に-」として掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
東欧における未解決問題と対象者の把握(Ⅰ)として、ユーゴスラビア紛争時の元兵士より提供を受けた資料をもとに論点を整理し、3回にわたるインタビューを実施する。コロナ禍により渡航が出来ないため、Zoomによるオンライン面接を行う予定である。これを分析考察することにより、海外における武道の教育力について明らかにし、関連学会における発表を経て、論文として完成させる。 武道の精神性の解明(Ⅱ・Ⅲ)として、引き続き近代武士道および武道の宗教性、更には佚斎樗山の心身論、外国人の日本論にアプローチする。 研究成果は、学会誌への投稿に加え、研究代表者が主催する「Budo World」プロジェクトのHP(https://budo-world.taiiku.tsukuba.ac.jp/)より、広く世界に発信する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大により、当初予定していた東欧への渡航が不可能なため予定を変更せざるを得なかった。今後は、コロナ禍の状況を注視し、Zoom等を活用しながらオンラインでのインタビューを行いつつ研究を進めるため、これに必要な環境を整備していく。
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