2020 Fiscal Year Research-status Report
留学はいつまで越境か;学生モビリティの将来に関する探索的研究
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20K20825
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
近藤 佐知彦 大阪大学, 国際教育交流センター, 教授 (70335397)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 留学 / 教育 / 異文化コンピテンシー / ヴァーチャル体験 / リアル体験 |
Outline of Annual Research Achievements |
私たちの社会や生活は急激に高度情報化している。また高等教育の国際化・グローバライゼーションは避けて通れない潮流となり、留学必須の教育プログラムも数多く運営されている。しかし環境が激変する中、大学やその学びも古い概念が生き残っている。例えば今後とも「越境」が大学生留学の最重要要素であり続けるのか。現在は「留学体験とは越境体験」というパラダイムによってすべてが運営されているが、日進月歩の科学技術はその枠組みも変えるかもしれない。こういった問題意識から申請した研究課題であり、海外も含めた先進事例の視察、調査、そして世界規模のコンフェレンスなどを舞台とした聴き取りなどを予定していた。 しかし申請時点では予想もしていなかったパンデミックによって、ビジネス等に限らず留学も「渡航不能」の状況に陥り、本研究課題についてはとりわけ緊急性の高い課題となった。そして研究計画では課題先進地での聴き取りや、実地の見学・調査を計画していたものの、渡航が制限されているなかで、計画については大きく見直す必要が生じている。 そのため、2020年度についてはオンラインによる各種セミナー、コンフェレンスへの参加を含めた情報収集と、海外協力者の一人であるDr Murakamiたちをとおした海外事情の聴き取りに取り組んでいる。また仮想空間では「人間関係」も「学び」も国境を越えている、という事実を直視し、そもそも身体が異国にあったとしても「母国と常時繋がっている現代の大学生」にとっての留学経験は、プレ・スマホ時代のそれと同質なのか、という疑問についても調査課題として焦点化している。そのため、国内の留学生に広範なネットワークを有する工藤昭子准教授(国際武道大)をあらたに分担者に加え、国内の留学生に対する調査を本格化させ、スマホ時代の留学のあり方についてその実態を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海外関係者との膝を交えた意見交換などが不可能となっており、当初期としていたような形態での情報収集については、その遅れが生じているのは否めない。海外でおこなわれるコンフェレンスについては、EAIEやSXSW.EDU、SXSWなどに関してオンライン参加をしながら、課題先進地や情報産業に関連する情報の収集を進めている。また日本国内のコンフェレンスもオンライン参加を余儀なくされており、直接にオンサイト参加をするのに比べると、あつまる情報の密度については隔靴掻痒の感は否めない。 なお、在英の海外協力者であるDr Murakamiの紹介を得て、中国の大学教授とのコンタクトも始まり、一旦はオンラインによる授業実施になったものの、現在はオンサイトでの授業実施となった中国の実態など、留学と直接の関係はないにせよ、大学におけるヴァーチャルとリアルの学習体験について、各地の事例を集めつつある。ICT利用が進み、その一方でオンサイトでの「まなびのあり方」に、様々な試行錯誤が続く英国や中国の現状について、オンラインで定期的な会議を持ち、聴き取りを実施してきた。これら海外協力者とはおおむね週に1回もしくは2週に1回のペースで定期的なオンラインミーティングを開き、相互に情報を交換しデータのアップデートを続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍によって「virtual education」や「virtual mobility(VM)」といった疑似越境の教育コンセプトは留学生教育関係者の間でも避けて通れないバズワードとなった。2019年度までもVM教育を標榜している機関も海外に複数存在し、日本の大学でもVMに力を傾注している例も見られた。しかしこれまでのVM教育は、履修の柔軟さと高い費用対効果を売り物にした遠隔教育に分類する方が相応しい取り組みが多かったように思われる。また2020年度以降については、パンデミックによって越境がストップさせられたことに伴い、従来の留学交流の代替手段として、VM留学が注目を集めたという経緯となる。 したがって、大学関係者の間でもPM(physical mobility)とVMの特色についてキチンと吟味をした議論はなおざりにされたままだが、コロナ禍を別としても、ウェアラブルPCや5Gネットワークの普及も視界に入ってきた時期でもあり、次世代の「留学生への教育」のあり方を考え直す時期であるのは間違いない。今後は越境が目的化していた留学生教育というパラダイムを俯瞰的・批判的に再検討しつつ「教育としての留学の本質」を明確化する。 海外渡航が出来ない制約の中、海外の日本人学生を対象にした調査や、海外の識者への聴き取り、見本市・学会等での情報収集には残念ながら制限がかけられている。そのため「国内にいる外国人留学生がどの程度母国・母文化と常時接続の状態にあるのか」という疑問を解くことを2021年度の研究目標とする。そのような研究課題について深く探求するため、海外協力者に加え、日本語教育について長い経験をもつ工藤昭子をあらたに分担者として加え、日本国内の留学生に対するアプローチを強める予定である。
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Causes of Carryover |
申請時には予期しなかったコロナ禍により、海外渡航が制限され、当初予定をしていた海外での聞き取りや調査はすべてオンラインでの参加となっている。当初計画していた情報収集手法は使えなかったため、感染症の大流行およびワクチン接種などが日本より数ヶ月ずつ先行している英国のDr Murakami(バース大)、およびDr Murakamiの紹介によって情報提供をお願いしている華中師範大学の洪教授と、オンライン機能を利用して定期的なミーティングをおこなっている。 今後は三者による共著を計画するとともに、国境を越えた移動が可能になった時を期してすぐに海外出張が出来るように準備を進める。また当面のところは海外だけでなく国内に滞留する留学生へのアンケート等を進めることにして「日本国内にいる外国人留学生はどの程度それぞれの母国と《常時接続》しているのか」という視点で調査に取りかかることにしている。そのため、国内の留学生に広いネットワークを持つ国際武道大の工藤昭子准教授をあらたに分担者としてチームに迎え入れている。
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Research Products
(2 results)