2021 Fiscal Year Research-status Report
The Investigation of developmental changes of emotional literacy:Implications for educational support
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20K20843
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
渡邊 弥生 法政大学, 文学部, 教授 (00210956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大森 美香 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50312806)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 感情理解 / 感情コンピテンス / 声 / 感情推測 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年と当該年度で実施した研究成果を学会発表や投稿論文の形で発表することに時間をかけた。声による感情理解については、幼児、小学生、中学生および高校生を対象とした研究を実施した。声の刺激語は、日常生活のコミュニケーションで頻繁に用いられる挨拶などの言葉を中心にして、しかも、その言葉自体に感情価を持たない、すなわちレキシカルバイアスを持たない言葉を選択した。日常生活において頻繁に耳にする言葉で、その言葉自体に「嫌い」と言った感情価が含まれていないと考えられる挨拶文(「おはよう」,「ばいばい」「いってきます」,「いってらっしゃい」,「おかえり」,「ただいま」など)が選ばれた。感情については怒り、悲しみ、喜びの基本感情がどの程度聞き分けられるのかを検討した。先行研究をふまえて、感情推測として難しいと指摘された驚きは、今回は対象にしなかった。いずれもこうした基礎研究の蓄積を参考に、感情リテラシーの健全な発達のアウトラインを明確とすることを目的とした。発話者は、演劇歴のあるプロの俳優(女性)および演技経験のある男性に協力を求めた。回答方法は対象年齢によって異なった。幼児は文字がまだ十分に読めないため、感情を同定する表情が描かれた図版が用いられた。声についてはテープで聞かせ個別に行った。その結果、年長児と年中児に発達差がみられた。小学生は1年生から6年生を対象として実施し、1年生から高い正答率がみられることが明らかになった。中学生および高校生には、刺激数を増やし、音声は、放送で流し、感情のチェックについては集団方式で質問紙で実施した。発達差を明らかにするために感情コンピテンスの尺度も実施した結果、感情コンピテンスの高いものが声による感情理解も優れているなど関連性のあることが明らかになった。いずれの研究も国際学会を含めて学会発表を行い、現在いずれも学術雑誌へ投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた調査は声については大方幼児期から成人までを対象に実施することができた。感情コンピテンスが高いことが、声のプロソディを深く情報処理して、相手の基本感情を推測する可能性が高いことが示唆された。また幼児期の年中から年長の過程で、大きく理解度が変化することが明らかになった。ただし、声の刺激を女性と男性あるいは年齢などで比較するところまでは至っていない。成人期まで、おおよそ基本感情は9割近く感情推測できるものの、どの年齢でも正解率が低い児童生徒の存在があることが明らかになった。感情コンピテンスが低いことが、正答率と関連があることが示唆されるが、他の要因の影響についても考えられる。例えば、喜びのトーンの声を聞いて、「喜び」であると判断しても、実際は「怒り」を隠しているのではないかといった予測をする生徒が、ある年齢から生じている可能性が示唆されており、さらに今後検討を重ねる必要がある。また感情の推測については、基本的に喜びか、怒りか、悲しみかの3択である場合には正しい理解をしているが、どのような感情として受けとめたかという自由記述による回答を求めると、中学生でも多様な感情のボキャブラリーで推測していることがわかり興味深い結果が得られた。さらに、今年度は声だけでなく、仕草についての感情推測の研究を計画中であり、悲しみや怒りなどの仕草が年齢によってどのように表現するか、また理解することができるのかを検討する予定である。並行して、こうした感情リテラシーのアセスメントやトレーニングを実施するために表情、声、仕草などの刺激となる教材(動画を含めた)を作成しようと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が計画していた調査は幼児期から成人までを対象に実施することができた。その結果をまとめて、論文に投稿中である(英語雑誌および和雑誌)。研究成果をまとめる上で、課題となることについては、(1)感情推測を規定する感情コンピテンスの違いだけではない他の要因が何であるかを検討すること、(2)感情の推測については、基本的に喜びか、怒りか、悲しみかの3択である方法を取ったが、やや強制的に一つの感情を判断させる方法であった。自由記述による回答を求めた場合には、多様な感情ボキャブラリにーより、種々の感情を推測していることが理解できた。したがって、自由記述で回答されるボキャブラリーの発達や入り混じった感情の理解など、さらに詳細に検討する必要が示唆された。(3)喜びの気持ちと判断できても、その背景に怒りの気持ちがあり、防衛的に喜びの声を出しているのではないかというような、他者のパーソナリティや文脈による影響など、について考える必要がある。(4)感情コンピテンスを育てることが、感情推測の正確さと関連することが見出されたが、どのような支援をするとこうした感情コンピテンス、また感情リテラシーを高めることができるか予防策、支援策について今後さらに検討していきたい。
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Causes of Carryover |
研究計画については予定通りほぼ進んでいるが、コロナ禍のため、国内において計画していた学校数で、同様の調査を行うことができなかった。また、研究成果を国内では発表しているが、国際的な場で成果を発表することができないため、渡航費や宿泊費などをほとんど使用しなかった。今年度は、渡航も可能になった国もあるため、国際的に成果を発表したいと考える。また、声などの刺激材料も、音だけでなく、動画を用いたものを作成したいと考えているため、材料の作成にも研究費を用いる予定である。
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