2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K20864
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
冨永 恵子 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (60256196)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡村 均 京都大学, 医学研究科, 研究員 (60158813)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 概日リズム / マーモセット / 昼行性霊長類 / 体内時計 / 脳波 |
Outline of Annual Research Achievements |
覚醒時のマーモセットは、身体を動かさずに、首だけをくるくる回すという習性がある。ここに着目し、マーモセットの微細な動作も検知しうる角速度による行動リズム計測系を開発した。この手法は、従来の加速度計による検出と同等以上の行動検出感度がある。また、マーモセットの負担にならない重さの小型センサーを首に下げて計測するため、非侵襲で動物にとってストレスフリーな実験手法と言える。この手法で自由行動下でのマーモセット個体の活動量を測定すると、14時間明(30~100ルクス)・10時間暗の明暗環境下での飼育では、明期に活動量が上がり、暗期には活動量が下がるという、典型的な昼行性を示した。 前年度開発した、昼夜問わず背中に装着するセンサー付小型ワイヤレスアンプで計測したEEG波形も、昼間の活動時と夜間の睡眠時ともに各々の脳活動に特徴的な波形を示した。明期の覚醒時には、α波、β波が支配的であり、マーモセットは明期に関わらず覚醒開始後13時間で、睡眠波形であるθ波やδ波が出現してくる。睡眠を開始すると、θ波・δ波を主とするNREM睡眠が50~60分持続した後、10~20分のα波、β波を主とするREM睡眠が規則的に出現する。これが8回前後続いた後、不明瞭な脳波が続いた状態となり、朝の目覚めに至る、という脳波リズムが確認された。今回、EEG解析において覚醒と睡眠を明確に区別するために、δ波とθ波のパワー和とα波とβ波のパワー和の差を全脳波のパワーの総和で除したSW値を用いて、日周変動を解析した。このSW値を用いるEEG解析により,Wake、NREM、REMのステージ判定が容易になるとともに,睡眠/覚醒の境界が明瞭に特定できるようになった。さらに、上記の角速度計による活動量の測定結果と連続EEG解析を併用することで、睡眠中の解析だけでなく、覚醒中のステージ解析も可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、小型昼行性霊長類であるマーモセットを用いた生体リズム測定系の確立をめざしている。今回、マーモセットの首にかけ、微細な動作も検知しうる角速度計による行動リズム計測系を開発し、昨年開発した脳波の連続測定系と比較検討して、さらに詳細な睡眠覚醒リズムの解析が可能となった。 マーモセットはヒトと同様に、単相性覚醒および単相性睡眠を示す。一方、マウスやラットの齧歯類では、睡眠覚醒状態は持続せず多相性となる。実際、マーモセットを14時間明:10時間暗の明期条件下で単独飼育下においた時の睡眠中の脳波の変化は、NREMから開始し、明瞭なREMを経るNREM-REMを十数回繰り返した後に、睡眠後半はNREMのδ波が弱まり、朝の覚醒に至るという、ヒトの睡眠中脳波と類似した経過を示した。このことは、マーモセットの睡眠覚醒リズムの解析が、ヒトに特徴的な単相性睡眠覚醒の解析にきわめて有用であることを示している。今回導入した、SW値を用いた解析手法の導入により、睡眠/覚醒判定、睡眠のステージ判定、覚醒期のステージ判定も容易に行え、今後、生体リズムのみならず、ストレスや脳変性疾患時の長期の脳活動の変動を捉えられる可能性が出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
動物愛護が研究者にも強く要望される時代となった。したがって、従来のような侵襲を与える方法をできるだけ避け、自然状態での観察が求められる。生体リズム研究は、元来、動物の生態観察から進展したこともあり、自然な行動リズムの観察が、実験室での研究でも求められる。今回、動物にとってストレスフリーの非侵襲手法といえる、マーモセットの首かけ型の角速度計を開発し、行動リズム実験に応用できることを確認した。今後は、脳波リズムとの相関解析だけでなく、体温センサーとも組み合わせて用いることで、体温リズムとの関係についても解析していきたい。現在、マーモセット脳内生体リズム系を部位特異的に機能変化させるために、ウイルスベクターを用いた実験準備を整えている最中である。本測定系を用いて、霊長類概日リズムシステムの分子メカニズムの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
引き続き次年度のウイルスベクターを使用した分子生物学的実験に使用するため。
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