2020 Fiscal Year Research-status Report
発展途上国の貧困が子どもに与える心理的影響:フィールド調査と仮想現実による検討
Project/Area Number |
20K20868
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Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
榊 美知子 高知工科大学, 総合研究所, 客員准教授 (50748671)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
繁桝 博昭 高知工科大学, 情報学群, 教授 (90447855)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 仮想現実 / ヴァーチャルリアリティ / 共感 / 貧困 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である本年度は,まず,途上国の貧困が子どもに与える心理的影響に関する調査を実施した。より具体的には,貧困層の多いナイジェリアに注目し,貧困地域と非貧困地域の学校に通う13歳から18歳までの子どもを対象として,学習動機づけ,抑うつ気分,ストレス経験を一週間に渡って毎日測定した。こうしたデータをもとに,抑うつ気分やストレスに関して,子どもごとに平均値を取得した。更に,感情やストレスの揺れの指標として,一週間でどのくらい個人内で変動があったのかを算出した。その結果,学習動機づけや抑うつ気分においては,特に貧困の影響は認められなかった。一方,ストレスに関しては貧困の効果が認められた。より具体的には,社会経済的地位が高い子どもほど(非貧困層の子どもほど),ストレス経験の個人内変動が大きく,ストレス感情のアップダウンが大きいことが示された。先行研究においては,感情制御機能の高い人ほど,外的要因に影響を受けにくく,ストレス経験の個人内の変動が小さい可能性が指摘されている (e.g., Franck & De Raedt, 2007)。本研究の結果から,貧困が必ずしも精神的な問題につながるとは限らないことが示唆される。こうしたナイジェリアの調査に加えて,本年度は,先進国においても絶対的貧困層の子どもの生活を実感できるシステムを構築するため,画像,文章や動画を集め,どのような刺激を使えば貧困を実感できるのかに関する予備調査を設計した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度である本年度は,以下の2つの研究を実施する予定であった。第一に,途上国の貧困が子どもに与える心理的影響に関する調査が挙げられる(研究1)。より具体的には,貧困層の多いナイジェリアに注目し,貧困地域と非貧困地域(統制条件)の学校に通う13歳から18歳までの子どもを対象として,貧困が子どもの動機づけ,抑うつ気分,不安,ストレス経験にもたらす影響を検討することを目指していた。第二に,仮想現実(バーチャル・リアリティ)に関する予備調査が挙げられる。具体的には,先進国においても絶対的貧困層の子どもの生活を実感できるシステムを構築するため,画像,文章や動画を集め,どのような刺激を使えば貧困を実感できるのかに関する予備調査を実施することを目指していた(研究2)。研究1に関しては,データの取得を完了し,現在データの解析を行っており,当初の予定通りの進捗状況である。一方,研究2に関しては,貧困を体験するための刺激収集を終え,実験のセットアップが終わっている。ただし,コロナウィルスの流行により,対面実験を実施しにくい状況にあり,実際の予備調査には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1に関しては,引き続き,データの解析を進め,貧困層のストレス脆弱性の低さの要因を明らかにすることを目指す。一方,研究2については,すでに実験のセットアップが終わっていることから,コロナウィルスの流行が収束次第,データの収集を開始する予定である。更に,共感や援助行動に留まらず,様々な心的処理に仮想現実が与える影響を検討するため,更なる研究デザインを練り,仮想現実を使用した研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」に記したように,本年度はコロナウィルスの流行により,一部の研究計画の進捗に遅れが生じた。そのため,次年度使用額が発生した。
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