2020 Fiscal Year Research-status Report
緊急地震速報の有効性改善のための心理学的アプローチ
Project/Area Number |
20K20872
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中谷内 一也 同志社大学, 心理学部, 教授 (50212105)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
畑 敏道 同志社大学, 心理学部, 教授 (50399044)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 防災 / 緊急地震速報 / 避難行動の自動化 |
Outline of Annual Research Achievements |
緊急地震速報は大きな地震動が到達する数秒から数十秒前に、揺れが予想される地域の住民に注意を呼びかける警報システムである。しかし、緊急地震速報を受信するだけでは人はほとんど動かない。本研究の目的は「では、どうすれば防護行動を引き起こせるのか」という問題を明らかにすることである。研究実施計画は、研究期間の1年目に「なぜ、緊急地震速報を受信しても防護行動がとられないのか」を住民調査を通じて検討し、2年目にその結果を踏まえ「どうすれば防護行動を促すことができるのか」について実験室実験を通じて検討する、というものである。 研究期間1年目は予定どおり住民調査を実施し、緊急地震速報を受信しても防護行動がとられない理由にアプローチした。得られたデータを分析した結果、多くの住民は緊急地震速報を携帯電話で受信するが、受信後最初にとる行動が携帯画面を確認することであり、これが迅速な防護行動の障壁となっている可能性が示唆された。日常生活の中に突然、予想外の変化や情報が入り込むと、変化の対象や情報源に強い注意が惹きつけられ、後続する情報を得ようとすることは人間の情報処理のあり方として自然なものである。しかしながら、緊急地震速報は受信後間もなく巨大な揺れが襲う可能性があり、携帯電話を見ても受信した状況でとるべき適切な情報が提供されることはない。本年度の調査で得られた最も重要な知見は以上のものであり、2年目の実験室実験では、緊急地震速報を受信したらその情報源を確認する行為をスキップして、状況にあった適応的な防護行動をとれるようにするためのトレーニングの方向性を示唆するものであった。 また、2年目の実験室実験に向けてマウントヘッドディスプレイを用いたバーチャルリアリティ装置の作成を進め、暫定的な設定を実現させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目に実施すべき研究計画のうち、最も主張な住民調査を実施し、2年目の実験室実験に繋ぐための重要な知見を得ることができたから。できれば、実際に緊急地震速報が発出された地域に直後の調査を実施したいところであったが、タイミングがかなわず、一般的な全国調査を行い、緊急地震速報を受信した経験者とそうでないものとを分けて分析を行った。また、2年目の実験室実験のバーチャルリアリティ装置の開発も早めに着手し、具体的な実験実施の見通しを立てることができた。一方、研究成果の発信に関しては2年目に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は条件性弁別のトレーニングを中心とする実験室実験を推進する。緊急地震速報の警報としての制約のひとつは、個人が居合わせる状況によってハザードが異なり、適切な行動を斉一的には呼びかけられないことにある。つまり、緊急地震速報はそのままでは適切な防御行動を想起させる弁別刺激として機能しない。そこで,ある刺激(緊急地震速報)の機能が組になって提示される別の刺激(受信する文脈)によって異なるという条件性弁別の手法によって訓練を行う。具体的な手続きは以下の通りである。学習セッションでは視覚的な文脈刺激(室内の食器棚など)の提示中に緊急地震速報を聴覚的に提示し(複合刺激),次いで適切な対処行動を無条件刺激として聴覚的に提示する。テストセッションでは複合刺激の提示後,適切な行動と不適切な行動を視覚的に提示し選択させる。トレーニングを行った実験群が、行っていない統制群よりも正答率が高く,反応潜時が短くなれば,学習の効果が確認されたことになる。 研究成果は内外の会議で報告し、国際的な雑誌に投稿して、広く情報発信する。
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Causes of Carryover |
出張予定が新型コロナ感染拡大によりオンラインで実施となり、次年度実施予定の装置に関する経費にも用いたが、若干の次年度使用額が生じた。 こうして生じた次年度使用額に元の次年度請求分助成金とを合わせて、本年度購入した装置を用いた実験を行うとともに、既に実施したフォローアップ調査を行い、研究成果発信のための投稿や学会発表を行う。
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