2020 Fiscal Year Research-status Report
Realization of Thouless pumping in electronic systems
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20K20894
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮川 和也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90302760)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 分子性固体 / 電荷秩序 / 中性-イオン性転移 / 輸送現象 / 核磁気共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では「固体電子系におけるThoulessポンピングの実現」のために、分子性固体が示す電荷秩序状態および中性-イオン性転移に着目している。 研究初年度においては、この目的実現のため、その基本的な特性をおさえるべく、中性-イオン性転移に関しては熱電効果の測定に着手した。このために「圧力下」での(熱)測定が必要となった。試料を圧力セル中に置くため、周辺環境を比較的制御し易い常圧下測定とは異なり、熱が圧力媒体を始めとした環境に流れないようにするなど測定上の問題が予想された。これらに対して、圧力セル中での試料やヒーター、配線配置などを工夫し、油圧クランプ方式での熱電効果の測定に成功した。 電荷秩序系物質では、分子配列様式が三角格子性を有し、そのために電荷配置のフラストレーションが生じ、秩序が融解している可能性のある物質に対して、異方的な歪を与えることによって電子状態の変化をNMR(核磁気共鳴)のよって検出する試みを行った。固体媒体(スタイキャスト1266)と油圧クランプセルの組み合わせにより歪を与えた。この方式でのNMR測定例はそれほど報告例がないため、スタイキャストの固化後、加圧前に電子状態が変化していなことを確認するなど手順を踏んで加圧した。さらに粘性の高いスタイキャストに試料を浸した際に試料の向きが変わってしまわないよう気を配って実験を行った。測定を行うと、一つの解釈として加えている歪が不均一になっていることを示唆する結果が得られた。これは試料が薄い平板結晶であり、平板方向と平行に歪を加えているために起こっている可能性があり、NMR測定における問題点、改善点を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では分子性物質を用い、電荷-格子秩序系に内在する複数の秩序変数を循環制御することによって、固体電子系におけるThoulessポンピングの実現を目指している。ただし、これらの実現は容易ではないことが当初から予想していた。この困難さを乗り越えるため第一歩として、まず、秩序相における秩序変数の制御を行う必要がある。初年度は秩序相における測定も行うことができたこと、実験上の課題も見出せたことからおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の結果を踏まえて、(i)常圧下二量化転移点周りで分程度の時間サイクルで温度の昇降と電場印加を循環的に繰り返し、Thoulessポンピングによる電荷輸送を焦電流測定で実証する。(ii)また、温度一定の下、転移圧周りで圧力の昇降と電場印加を循環的に繰り返す方法でもThoulessポンピングをめざす。そのために、熱電効果に関しては結晶軸依存性の測定を行う。異方的圧力下でのNMRでは既設のスプリット超伝導磁石を用いて磁場角度依存性などを測定し、一軸歪下での結晶構造、電子構造を明らかにしていくとともに、より高圧への印加も試みる。一軸歪の不均一性の有無に関しては試料を変えた測定を行うことで検証をする。
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Causes of Carryover |
直接経費の98%以上の使用をし、最終的に残額が生じたが、これは寒剤の価格の変化によるものである。残額は本年との予算と合わせて試料や超伝導磁石を冷却する際の寒剤に使用する。
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