2020 Fiscal Year Research-status Report
摂動下光電子二色性による磁性転移における微視的電子状態変化の解明
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20K20900
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
関山 明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40294160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今田 真 立命館大学, 理工学部, 教授 (90240837)
海老原 孝雄 静岡大学, 理学部, 准教授 (20273162)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 偏光 / 磁気円二色性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、従来殆ど不可能と思われていた磁場中における光電子分光を硬X線励起によって実現し、励起光の偏光制御による線/円二色性を組み合わせる。そしてこの手法で、現実の磁性電子系における(エネルギー分解能よりも遥かに小さい)強/反強磁性転移による軌道対称性まで含めた微視的電子状態変化を観測・解明することを目的とする。この目的を達成するために3dないしは4f軌道が不完全殻になっている化合物磁性体の磁場中摂動下光電子分光測定を行う。2020年度は、磁性転移温度が10 K程度であるCeAgSb2について、印加磁場100 mT, 測定温度6 Kにおいて摂動下Ce 3d内殻光電子磁気円二色性(光電子MCD)の測定に成功した。但し、測定した光電子放出角度が1点のみであり、事前に理論的に予測できている光電子MCDの角度依存性の測定まではできておらず、この点で観測された光電子MCDが本質的な結果と結論づけるには至っていない。 光電子分光測定においては印加磁場が100 mT程度であったが、試料ホルダーの改良や使用する小型永久磁石の再検討により摂動下光電子分光用の新たな試料ホルダーの製作を進めた。いわゆるex-situ環境下ではあるが永久磁石の効率的なホルダー中への埋め込みにより試料固定板表面において200 mTの磁場発生に成功した。通常のマクロ測定と比較すると数分の1ではあるが光電子分光においては強い磁場と光電子の曲がりはトレードオフの関係があるため、今後200 mT磁場中での光電子分光測定を慎重に進めていく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19によりSPring-8でのビームタイムが減少し、従来の年平均と比較して半分程度の実験時間しか確保できなかったのは予想外とはいえ残念であった。これにより想定していたホイスラー合金など3d磁性元素化合物に対する摂動下光電子分光は2020年度中にはほとんど進まなかったといえる。研究実績の概要欄に記載したCeAgSb2の磁場中光電子分光によるMCD観測も光電子放出角度測定点が1点のみであるため十分な量のデータが得られたとは言い難い。その中で今後のSPring-8利用実験に向けて摂動下硬X線光電子分光実験に向けた準備は分担者グループも含めて着実に進行しており、最大で印加磁場200 mTでの実験が可能になりつつある。これにより、ビームタイムさえあれば十分挽回可能ではあるもののおおむね順調とまでは判断できず、やや遅れているという判断を下さざるを得ない。但し、準備状況としては順調な面もあるので2021年度に一気に研究を進めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要欄に記載の通り、強い磁場と光電子の曲がりはトレードオフの関係があるため、今後200 mT磁場中での光電子分光測定を慎重に進めていく必要がある。これについては一定程度測定実績のあるCeAgSb2を中心に、この系におけるCe 3d内殻光電子MCDの光電子放出角依存性を印加磁場100 mTで進め(内外での状況から100 mTかつ光電子運動エネルギー7 keV程度であれば十分本質的な結果が得られることが判明しつつある)、摂動下光電子分光におけるスペクトルの定量性を評価する。合わせて200 mTの磁場で同様な測定を進めることで(この程度の磁場領域であれば光電子MCDは印加磁場にほぼ比例することが期待できる)定量性を最終評価する。 加えて、2020年度には測定開始できなかった3d磁性金属元素を含む化合物に対してもホイスラー合金を中心に摂動下光電子分光を進めていく。こちらについては価電子帯においても光電子MCD測定を狙う。これは3d光電子ではなく3d軌道と混成しているであろう4p電子のスピン軌道相互作用を通じた観測である。硬X線励起においては4p軌道電子の光イオン化断面積は相対的に大きくなることから、混成を通じた価電子帯光電子MCDの観測ひいては電子物性の本質的な理解を助ける実験結果の取得につながるものと思われる。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響によりSPring-8でのビームタイムが減少したことから摂動下光電子スペクトルの測定そのものの進捗が思わしくなく、出張旅費の支出が大きく減少した。また、についても若干高額な物品の納入は困難であることから見合わせた。次年度は見合わせた物品の納入を進め、同時にSPring-8でのビームタイムも回復見込みであることから積極的に研究を進めていく予定であるため必要経費は2年間の間では変動しない見込みである。
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Research Products
(1 results)