2023 Fiscal Year Research-status Report
新奇高圧物性のミクロ・マクロ物性測定を可能にする15万気圧級小型高圧装置の開発
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20K20902
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
久田 旭彦 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (40579885)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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Keywords | 高圧 / 装置開発 / 超伝導 / 固体物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
高圧技術の発達に伴い、近年では数万から10万気圧以上の高圧領域において新奇物性の発見が続いている。本研究はそれらの物性研究をミクロ・マクロ両面から行うための15万気圧級小型高圧装置の開発を目指すものである。 当該年度は8万気圧を超える高圧領域での電気抵抗測定に挑戦するとともに、開発した装置を低温実験に適用する為の圧力保持機構の開発に取り組んだ。また、高圧下での新奇物性が期待される物質の合成と高圧物性測定も行った。これらの成果については国内学会で発表を行った。 高圧装置開発では8万気圧を超える高圧領域での圧力校正を目的としてSnの電気抵抗測定を行い、室温において15.3トンで9.4万気圧を発生させることに成功した。また、圧力保持機構としてハンギングサポート方式を備えた装置本体を開発することで、4万気圧での圧力保持と低温実験にも成功した。これらの性能は同等の大きさをもつ小型汎用高圧装置ピストンシリンダーセルの限界圧力を超えるものであり、第64回高圧討論会で発表した際は、核磁気共鳴測定や物質合成研究への応用を期待する声が得られた。 また、前年度に単結晶試料の合成に成功した鉄系低次元化合物について、純度の向上と元素置換にも取り組んだ。具体的には高純度の原料試薬を用意し、さらに真空封管の際の真空度を高める工夫を行うことで純度の向上による超伝導の発現を目指した。一方、元素置換した試料についてはX線回折測定により格子定数の連続的な変化を確認したうえで高圧電気抵抗測定を行った。これらは測定した圧力領域において超伝導転移は観測できなかったものの、残留抵抗比の圧力依存性の解析から静水圧性が超伝導特性に関わっている可能性があることが分かった。以上の成果については、応用物理・物理系学会中国四国支部合同学術講演会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の計画では、当該年度までに15万気圧級高圧測定を成功させ、ミクロ・マクロ物性測定についての実験と成果発表を行う予定であったが、現状は1年前後の遅れが生じている。 その理由として、10万気圧を超える高圧に加圧した際に想定外の装置の破損が起きたことや、当該年度に研究者本人が新型コロナウイルス感染症に感染してしまい、予定していた出張・研究が行えなかったこと、さらに、資材価格高騰の影響で液体ヘリウムを用いた低温実験が困難になったことが挙げられる。 そこで現在は、10万気圧以下の成果について一度整理し、論文発表する方針で準備を進めている。また、解体後の部品や破片の形状を詳細に記録することで破損原因の検証も進めており、素材や形状ごとの変形率を解析した結果、加圧面の形状、試料空間の設計、金属素材の強度などに改善できる点が見えてきている。そこで、この結果をもとに部分的な設計変更と新しい部品の製作を行っているところである。 一方、低温実験については、圧力保持機構と専用プローブは完成しており、液体窒素温度までの物性測定にも成功している。しかし、液体ヘリウムを用いた実験は引き続き実施困難であることから、寒剤供給設備の整った外部機関での出張実験を計画すると同時に、無冷媒冷凍機での使用に向けた高圧装置のさらなる小型化も検討中である。 鉄系低次元化合物の単結晶合成と元素置換については、それぞれ目標としていた物質の合成に成功したものの、キュービックアンビル高圧装置を用いた実験では圧力誘起超伝導転移は観測できなかった。ただし、残留抵抗比の圧力依存性を解析した結果、静水圧性の違いによって超伝導が現れる可能性が見えてきた為、比較実験を行うため、開発中の高圧装置の完成を待っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
高圧装置開発に関しては、10万気圧以上での装置の破損を防ぐことが最優先課題である。そこで、加圧面の形状変更による強度の向上、設計変更による試料空間の膨張の抑制、素材変更によるガスケットの強度の向上に取り組み、Bi、Sn、Pbの電気抵抗測定を行うことで13.7万気圧までの高圧測定と圧力校正を実施する計画である。さらに、ミクロ物性測定への適用例として酸化銅の核四重極共鳴測定による圧力校正や鉄系化合物の核磁気共鳴測定も行いたいと考えている。その際、一部の測定は低温・磁場中で行う必要があるが、多重極限環境下での物性測定の実績を持つ研究協力者にも協力を仰ぎながら、早期に成果を得ることを目指したい。 また、液体ヘリウムを用いた実験が行えない場合の代案として、測定対象を銅酸化物高温超伝導体にまで広げることも検討中である。高温超伝導体の超伝導転移は液体ヘリウムを用いずとも液体窒素温度までで観測することができ、また、数万気圧以上の圧力領域において超伝導転移温度が変化するという報告もあることから、開発した高圧装置の性能評価という目的には適している。 成果発表については、現時点までの成果について一度整理し、論文発表を行う方針である。また、国内学会の第65回高圧討論会や2025年度に開催される国際学会AIRAPTでの成果発表も計画している。15万気圧級測定、低温実験、ミクロ物性測定についても年度内の実現を目指し、Review of Scientific Instruments、Physical Review、Journal of the Physical Society of Japanなどの論文誌で成果発表を行う計画である。
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Causes of Carryover |
論文投稿等の成果発表の為の費用として確保していたが、想定外の装置の破損や研究者本人の新型コロナウイルス感染といったトラブルにより10万気圧以上の高圧領域の実験が遅れた為、次年度の成果発表用にまわすことにした。
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