2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on chemical reactions in single-walled carbon nanotube hollow cores for prebiotic synthesis of organic molecules
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20K20946
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
川崎 晋司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40241294)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / 有機分子合成 / 内包 / 電気化学反応 / 硫黄 / 二酸化炭素 |
Outline of Annual Research Achievements |
初期地球で生命有機物がどのように誕生したかということに関する有力な仮説を、単層カーボンナノチューブ空間内で検証しようという狙いで2つの実験を進めてきた。一つはナノチューブ内の擬似高圧力場のもとで直接的に窒素と水素からアンモニアを合成しようというものであり、もう一つはナノチューブ内に硫化鉄を導入しこれを触媒として二酸化炭素の還元により生命有機物を得ようというものである。前者の実験については、実験は実施したもののアンモニアの検出はできておらず今後さらなる分析・研究が必要である。後者については硫化鉄をチューブ内に内包させるためにいったん硫黄を内包し、複雑な手順を経て硫化鉄をチューブ内で合成した。まだ、目的とする研究の中途段階であるが、このチューブ内反応および生成物は科学的に面白いものである。このナノチューブに内包した硫黄の構造および電子状態に加えて、硫化鉄にいたる電気化学反応・イオン交換反応について大学院生が炭素材料を扱う学会で口頭発表した。また、この2つの実験に共通して行う単層カーボンナノチューブの電気化学反応に関して、電位を付与した際のイオンの吸着挙動について新しい知見を得たので論文にまとめ投稿を行った。今後は導入した硫化鉄を触媒として二酸化炭素の電気化学還元反応が果たして起こりうるのか、どういった生成物が得られるのかといったことを初期地球の生命有機物の起源探索の視点で調べていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノチューブ内での有機物合成を目指し、2つの反応系をテストした。一つはナノチューブ内で窒素分子と水素イオンを電気化学的に反応させようというものであり、もう一つは硫化鉄をナノチューブ内に導入したうえでこれを触媒として二酸化炭素還元反応を電気化学的に行おうというものである。まず、最初の実験については単層カーボンナノチューブに窒素分子を導入することから行った。ナノチューブを真空下で加熱処理してチューブ内を真空としたのち、窒素ガスを導入した。この時、ナノチューブを液体窒素により冷却することで効率よく内包処理した。この窒素を内包したチューブを電極とし、酸性溶液中でナノチューブ電極に負電位を付与して水素イオンをチューブ内で反応させた。生成したガスをガスクロマトグラフィーで分析するとともに、電解液をNMRで分析しアンモニアの検出を試みたがいずれも検出されなかった。生成物がチューブ内にとどまっている可能性があり、これについて今後分析を実施する。一方、硫化鉄の内包については次のように実験を進めた。単層カーボンナノチューブと硫黄粉末をガラス管に真空封入したのち、加熱して硫黄を昇華させナノチューブ内に導入した。この内包した硫黄と鉄の直接高温反応を試みたが電子分光実験の結果、反応は進行していないことを確認した。次に内包した硫黄を電極として電気化学的にリチウムイオンをチューブ内に導入して反応させたのちに、イオン交換により鉄を導入することを試みた。こちらについては電子分光実験の結果、反応が進行していることが確認された。今後はチューブ内にある硫化鉄を触媒として二酸化炭素の電気化学還元を行い生命有機物の合成を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
実績や進捗状況のところで記したように、単層カーボンナノチューブを使った2つの反応実験がどちらも中途段階である。この2つについてさらに実験を進めていきたいと考えている。具体的にはナノチューブに導入した窒素と水素イオンの電気化学反応についてはナノチューブのチューブ径や電気化学反応条件をかえて実験を実施し、アンモニアの生成を確認する。昨年度実施できなかったナノチューブ内の分析についても今年度光電子分光などの実験により行う。また、昨年度調整した単層カーボンナノチューブに内包した硫化鉄を触媒として二酸化炭素の電気化学還元反応を実施する。この実験においては硫化鉄を内包したナノチューブを電極とし、これを炭酸水素カリウム溶液に入れたうえで二酸化炭素ガスをバブリングして飽和させたのちに電極に負電位を付与して二酸化炭素の還元実験を行う。反応ガスをガスクロマトグラフィーで分析するとともに、電解液はNMRで、電極は各種分光実験により分析し生命有機物の生成の有無を確認する。対照実験として単層カーボンナノチューブの表面に硫化鉄を析出させた試料についても同様の実験を実施し、二酸化炭素還元反応にチューブ内の擬似高圧力場がどのような影響を与えるのかについても考察していく予定である。一連の実験については装置類については整備されているので、試薬や電気化学セルなどの消耗品に予算の大部分をあてる。また、分析に必要な学内の大型装置の利用料や放射光利用料などにも予算を使用する。また、昨年度研究開始時期が遅れた分を取り戻すため、研究員を短期間雇用して研究を加速させる予定である。
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Causes of Carryover |
昨年、コロナ禍で実験器具の調達に遅れが生じ、実験の一部を行うことができず、予算未達となった。今年度はこの遅れを取り戻すため、初期に実験人員を増やして研究を行う。このための予算を必要とし、繰り越した予算をこれに充当する。また、昨年度実施できなかった実験の器具調達もこの繰り越し分でまかない、早期に昨年の遅れを取り戻す。具体的には昨年度すすめていた単層カーボンナノチューブ内での硫化鉄の合成とそれを用いた二酸化炭素還元反応について継続して実験を行う。昨年度はチューブ内での硫化鉄の合成まで実施したが、今年度はこれを用いて二酸化炭素の還元反応を実施し、どのような有機物が合成されるかを検証したい。あわせて、単層カーボンナノチューブの外表面に硫化鉄を合成する実験も進め、チューブの内外での二酸化炭素の還元反応の違いを明らかにしたい。これによりチューブ内の擬高圧環境が有機物合成に与える影響を検証し、初期地球での有機物合成の理解につなげたい。
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Research Products
(4 results)