2020 Fiscal Year Research-status Report
異常気象発生の力学の解明に向けた画期的な大気波動エネルギー論
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20K20949
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
高谷 康太郎 京都産業大学, 理学部, 教授 (60392966)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 異常気象 / 偏西風の南北蛇行 / 位相依存性のないエネルギー変換 / ロスビー波伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「位相依存性のないエネルギー変換」の定式化の確立と、その成果を用いて異常気象の発生のメカニズムを解明する事を目的としている。本年度は、大きく二つの成果があった。まず一つ目として、「位相依存性のないエネルギー変換項の定式化」に成功した。中高緯度域での異常気象の発生に極めて重要な偏西風南北蛇行のメカニズムを理論的に解明するための手法の一つとして、蛇行=ロスビー波擾乱エネルギーと偏西風基本場エネルギーとの間のエネルギー変換を評価する方法が考えられる。しかし、先行研究におけるエネルギー変換の定式では、1波長を越える広い領域の「波束」のエネルギー変換を位相に依存しない形で正しく計算出来ない問題があった。今年度の研究において、擾乱エネルギーの二つの表式を組み合わせる事により、位相依存しない擾乱エネルギー及びエネルギー変換項の定式化に世界で初めて成功した。 二つ目の成果として、エルニーニョ現象が中緯度極東の冬季気候に与える影響についての研究を行った。これは、上記の「位相依存性のないエネルギー変換項の定式」を実際の異常気象研究に適用するにあたり、その前段階として必須の重要な研究である。一般的に「エルニーニョ発生時には、大気循環変動としてPacific-North American(PNA)パターンが卓越し日本付近が暖冬となる」と言われるが、調査研究の結果、必ずしもそのような単純な構図は当てはまらず、エルニーニョ現象に伴って卓越する大気循環変動は大まかに2通り存在する事が判明した。また、なぜエルニーニョ現象に伴う大気変動が、上記2つに分かれるのかについての力学的調査を行い、エルニーニョ現象のタイプの違いが原因である事を示唆する結果を得た。なお、本研究の成果は既に国際学術誌に受理され出版されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」にも記した通り、本年度は大きく2つの成果を得た。一つ目の「位相依存性のないエネルギー変換の定式化」に関してまず説明する。上記の通り、中高緯度域での異常気象の発生に重要な偏西風の南北蛇行の発生機構の調査研究に「位相依存性のないエネルギー変換の定式」が大きな役割を果たす事が期待される。本研究では、準地衡風系場における擾乱ロスビー波のエネルギーが、速度場由来のものと渦度場由来のものとの2種類に表現できる事を利用し、それらを組み合わせる事で、世界で初めて位相依存性のないエネルギー及び「波束」のエネルギー変換を定式化する事に成功した。 次に成果2つ目の「エルニーニョ現象が中緯度極東の冬季気候に与える影響」について説明する。一般的に「エルニーニョ発生時には、大気循環変動としてPacific-North American(PNA)パターンが卓越し日本付近は暖冬」と言われるが、調査の結果、この構図は必ずしも正しくない事が判明した。PNAパターンが卓越する事例は多いが、この場合日本付近は寒冬となる。一方、PNAとは別に、Western Pacific(WP)パターンが卓越する場合も多く、日本付近が暖冬になるのはこのパターンである。これらの事例を単純平均すると「エルニーニョ/PNA/暖冬」という今までの描像が得られるが、実際には、上記のように、エルニーニョ現象に伴う大気変動は2通り存在するのが、より正しい描像である事を初めて示した。次になぜエルニーニョ現象に伴う大気変動が上記2つあるかについて、渦度強制解析などの力学的調査を行った。その結果、同じエルニーニョ現象でも、中央太平洋で暖水偏差が卓越する場合と、東部太平洋で卓越する場合とでタイプが分かれ、前者がWPパターンと、後者がPNAパターンと密接な関係がある事が初めて判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に得られた「位相依存性のないエネルギー変換の定式化」の成果について、早急に論文化して国際学術誌への出版を目指す。非常に斬新で画期的な成果のため、1日も早く、学術コミュニティによる評価・批判が必要であろうと判断している。 大気循環変動のエネルギー論に関しては、先行研究による膨大な蓄積がある。本研究で取り扱う「位相依存性のないエネルギー」という観点でこのエネルギー論がどのように変更されるか、または新しく記述出来るかを明らかにすることは、この「位相依存性のないエネルギー」が広く学術コミュニティに受け入れられるために避けては通れない課題である。この課題に関しては非常に精緻な議論を展開する事が要求されるが、2021年度はそれに堪え得る新しいエネルギー論の体系の完成を目指す。また余力があれば、擾乱エネルギーの方程式系における位相依存しない強制項の定式化も目指す。 さらに上記成果を基にしながら、2021年度は、エルニーニョなど外部要因が大気循環変動にもたらす影響を観測データ解析から定量的に正しく評価することを通じ、異常気象の発生メカニズムを解明することを目指す。「研究実績の概要」や「現在までの進捗状況」で説明したエルニーニョ現象の中高緯度大気循環変動の影響調査で用いた渦度強制解析は、やや精度に欠ける側面があった。そこで、本研究での成果である「位相依存しないエネルギー変換の定式」を用いて、より正確で定量的な調査を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型肺炎流行の影響により、2020年度に予定していた国際学会や国内研究ワークショップへの参加を見送った事、及び、位相依存性のないエネルギー変換の定式化に関して得られた成果の論文化が、エルニーニョ現象の中高緯度大気循環変動の研究の論文化に携わったためにやや遅れた事により、次年度使用額が生じた。ただし、メールなどを通じて国際的に議論を展開している事、エルニーニョ現象の研究も本研究の推進に重要である事から、上記事案による本研究遂行への深刻な影響はほぼない。 次年度は、位相依存性のないエネルギー変換の定式化の論文化と国際学術誌への出版を喫緊の課題とする。従って、次年度使用の交付金は投稿料などとして使用予定である。また、可能であれば、国際学会に参加を予定している。対面式集会に参加出来るかはやや不透明だが、次年度はオンライン大会などに積極的に参加する。そのための大会参加費などにも次年度使用の交付金を使用予定である。
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