2022 Fiscal Year Research-status Report
異常気象発生の力学の解明に向けた画期的な大気波動エネルギー論
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20K20949
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
高谷 康太郎 京都産業大学, 理学部, 教授 (60392966)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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Keywords | 異常気象 / 偏西風の南北蛇行 / 位相依存性のないエネルギー変換 / ロスビー波伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、位相依存性のないエネルギー変換項の定式化に関して、新たな物理量の発見という非常に大きな成果を得ることが出来た。今まで本研究において位相依存性のないエネルギー変換項の定式が得られていることは、昨年度までに報告した通りである。この位相依存性のないエネルギー変換項は、擾乱エネルギーの時間発展方程式だけでなく、基本場エネルギーの時間発展方程式にも正負を入れ替えた形で現れる。ところが、擾乱及び基本場のエネルギー時間発展方程式の双方を考察したとき、停滞性擾乱に関しては双方の方程式が整合的に記述できるのだが、移動性擾乱に関しては整合的に解釈しにくいという問題が存在し課題となっていた。しかし本年の研究で報告者は、この不整合の問題を克服することに成功した。具体的には、エネルギー変換項を擾乱及び基本場双方の立場で整合的に記述するためには、擾乱エネルギーではなく、新しい擾乱物理量 -擬運動量に基本場流速を乗じたような物理量- の方程式を考えねばならないことを理論的に示すことが出来た。「エネルギー変換項は擾乱エネルギーの式に現れるのではない(新物理量の式に現れる)」というような、一見混乱を招きそうな結論であるが、これは擬運動量の保存則に立ち返って考察すればむしろ自然な結論である。現在、この画期的な結論についての論文を鋭意作成中である。 上記の成果に加え、筑波大学の植田宏昭教授のグループと、南アジア・太平洋領域の対流圏上層に存在する高気圧性循環の形成・維持のメカニズムを、熱帯・亜熱帯相互作用の視点から解析した成果を論文として出版した。この成果は、報告者の理論研究の成果を異常気象研究に適用するにあたっての「前準備」、という意味も含むものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きな目標は、位相依存性のないエネルギー変換項に関わる新しいエネルギー論の理論的構築を完成させることである。理論を整合的に記述するためには、この位相依存性のないエネルギー変換項が、擾乱エネルギーの時間発展方程式だけでなく、基本場エネルギーの時間発展方程式にも正負を入れ替えた形で現れなければならない。ところが、擾乱及び基本場のエネルギー時間発展方程式の双方を考察したとき、停滞性擾乱に関しては双方の方程式が整合的に記述できるのだが、移動性擾乱に関しては整合的に解釈しにくいという問題が存在していた。それに対し、本年の研究で報告者は、この不整合の問題を克服することに成功した。具体的には、エネルギー変換項を擾乱及び基本場双方の立場で整合的に記述するためには、擾乱エネルギーではなく、新しい擾乱物理量 -擬運動量に基本場流速を乗じたような物理量- の方程式を考えねばならないことを理論的に示すことが出来た。「エネルギー変換項は擾乱エネルギーの式に現れるのではない(新物理量の式に現れる)」というような、一見混乱を招きそうな結論であるが、これは擬運動量の保存則に立ち返って考察すればむしろ自然な結論ともいえる。この結論は、研究計画作成当初には全く予期していなかった画期的なものである。以上の成果により、位相依存性のないエネルギー変換項を含むエネルギー論の体系がより整合的に整備され、理論の信頼性が抜群に向上したと評価できる。 上記の理論的成果の他にも、報告者の理論研究の成果を異常気象研究に適用するにあたっての「前準備」の意味も込めて、南アジア・太平洋領域の対流圏上層に存在する高気圧性循環の形成・維持のメカニズムを、熱帯・亜熱帯相互作用の視点から解析した研究を行った。筑波大学の植田宏昭教授のグループと行って得たこの成果は論文として既に国際学術誌に掲載されている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の「進捗状況」で説明した、エネルギー論をより高精度で体系的に構築するために必要な新しい擾乱物理量の発見も含め、今までの研究で得られた「位相依存性のないエネルギー変換の定式化」の成果について、早急に論文化して国際学術誌への出版を目指す。また、本研究で取り扱う「位相依存性のないエネルギー」という観点で、既存の大気循環変動のエネルギー論がどのように変更されるか、または新しく記述出来るかを明らかにする。今までの研究により、位相依存性のないエネルギー変換項を含むエネルギー論は、より高精度で体系的に構築されている。この「位相依存性のないエネルギー」が広く学術コミュニティに受け入れられるために、論文化に加え、積極的に学会等で発表する。また余力があれば、擾乱エネルギーの方程式系における位相依存しない強制項の定式化も目指す。いずれにせよ、本研究課題の成果は非常に斬新で画期的な成果のため、1日も早く学術論文を公開し、学術コミュニティによる評価・批判が必要であろうと判断している。 さらに上記成果を基にしながら、本年度は、エルニーニョなど外部要因が大気循環変動にもたらす影響を観測データ解析から定量的に正しく評価することを通じ、異常気象の発生メカニズムを解明することを目指す。これまでの研究における、エルニーニョ発生時の中高緯度大気循環変動の影響調査で用いた渦度強制解析は、やや精度に欠ける側面があった。そこで、本研究での成果である「位相依存しないエネルギー変換の定式」を用いて、より正確で定量的な調査を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度実施予定であった研究代表者・分担者を含む国際シンポジウムの開催の延期が余儀なくされたこと、および、新物理量の発見による理論体系の構築に時間を必要としたことにより、次年度使用額が生じた。前者に関しては、メールなどを通じて国際的に議論を展開している事により、本研究遂行へ深刻な影響はほぼない。後者に関しては、この成果は本研究開始当初には全く想定していなかった、予定以上の成果であるため、本研究遂行にはむしろ積極的に評価しうる事案である。 次年度は、位相依存性のないエネルギー変換の定式化の論文化と国際学術誌への出版を喫緊の課題とする。従って、次年度使用の交付金は投稿料などとして使用予定である。また、国際学会などへの積極的な参加を予定している。そのための大会参加費などにも次年度使用の交付金を使用予定である。
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