2021 Fiscal Year Research-status Report
大脳二次聴覚野モデルに基づくコンクリート打音検査装置
Project/Area Number |
20K21016
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安永 守利 筑波大学, システム情報系, 教授 (80272178)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 自己組織化マップ / 大脳 / ニューラルネット / コンクリート / 打音検査 / FPGA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,汎化能力が高く人間の識別能力に近いコンクリート打音検査装置を,大脳のモデルに基づき構築すること(その基本的な技術を確立すること)である.なお,本研究では,大脳のモデル(ニューラルネットワーク)として,自己組織化マップ(SOM:Self Organaizing Map)に焦点を当てている. 取得済みの約8,000個のコンクリート試験体の打音データを用いて,引き続きSOMによるコンクリート試験体内部の欠陥推定の評価を行った.その結果,学習に用いた欠陥クラス(深さ,直径)で未学習のデータについて,90%以上の精度で推定できることがわかった(パラメータ調整により,昨年度より精度が向上した).さらに,学習に用いない欠陥クラスの打音データについても推定を行ったところ,学習に用いた欠陥クラスの中の近いクラス(深さや直径が似通ったクラス)に判定できることが分かった.現在,学習に用いている欠陥クラスは8種類(最大直径200mm,最大深さ100mm)であるが,クラスを増やすことで実コンクリート構造体の様々な欠陥サイズをより正確に推定できる可能性があることがわかった. また,この結果より,回帰推定が可能な機械学習手法により,欠陥サイズを連続値として推定できる可能性があることがわかった.現在のところSOMは回帰推定はできないが,Multi-Layer Perceptron などの機械学習法を用いることで回帰推定が可能な見通しを得ることができた. SOMの高速計算のためのハードウェア開発については,ハードウェア設計環境の変更に伴い,これまでの設計資産(回路記述と回路データ)の改変がほぼ終了し,最新の書き換え可能集積回路(Alveo u50)にSOMを実装することができた.速度性能評価の結果,従来のハードウェアに対して,約2倍の高速化が可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大脳のモデルである自己組織化マップ(SOM)を用いることで,当初の予測どおり,コンクリート打音データからコンクリート内部の欠陥を予測することができることがわかった.さらに,SOMの特長である学習結果の可視化により,欠陥のクラス(深さ,直径)の類似度,および,未知の打音データの学習データとの類似度をグラフィカルに表示することができる.この可視化技術は,今後の実際の現場における打音検査の精度向上,効率向上に大きく貢献できると考える. 一方,人間でも判定が難しい,小さくて深い欠陥(例えば,直径50mm,深さ40mm)については,正常なコンクリートとして判定するケースも多い.このような欠陥クラスについては,さらにデータ数を増やすとともに,SOMのアルゴリズムの改変も必要となる. SOMの高速計算のためのハードウェア開発については,ハードウェアメーカの設計環境改変に対応した設計資産(回路記述と回路データ)の作り直しがほぼ完了し,無事,新たな設計環境でハードウェアの動作を確認することができた.これにより,最新のハードウェアであるAlveo u50でSOMを実行することができ,予定どおり,従来に比べ約2倍の高速化が可能となった.また,ハードウェアの回路構成を変更することで,SOMのサイズ(ニューロン数)に合った並列化が可能となった. しかしその反面,ハードウェア実行の基本となるクロック周波数が一定にならないことやSOMデータの転送に使われるデータバスがさらなる動作速度向上のボトルネックになることがわかった.これらの回路詳細は,メーカ側の提供する新たなハードウェア設計環境によって決められるが,回路記述を変更することで改善できる可能性があり,今後,検討を行う予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
学習に使わなかった欠陥についても,その深さと直径の点で類似した学習済み欠陥として判定でき,その類似度も可視化できることがわかった.これより,学習欠陥の種類を増やすことで,SOMでも回帰推定に近い判定ができるものと考えられる.今後,欠陥の種類を増やして学習を行う予定である.また,Multi-Layer Perceptron のような機械学習を用いることで,欠陥の深さや直径を回帰推定できる可能性があり,SOMにとどまらず,その他の機械学習方法の性能も評価する予定である.さらに,本年度に生まれた新たなアイデアとして,打音データを画像データに変換して学習に用いるアプローチがある.具体的には,打音データを画像データ(音声解析に用いるメルスペクトログラム)に変換して学習を行う手法である.これにより,打音データだけでは抽出できなかった欠陥の特徴を抽出できる可能性がある.特に,近年,画像認識に高い精度を示している畳み込みニューラルネットワークを用いることで高い性能を示す可能性もあり,このアプローチも検討予定である. ハードウエア開発については,ハードウエアの基本性能であるスケーラビリティ(並列度と処理速度の関係)の評価を進める予定である.さらに,ハードウェア化したSOMは,高い耐故障性能を有することがわかってきた.この高耐故障性能については,学会発表でも高評価をえることができ,電気学会での招待講演も行った.今後,この耐故障性能についても研究を進めて行く. コンクリート構造物の老朽化は,一般の建築物,橋梁等だけではなく,防衛施設においてもその対策が急務となっている.本研究は防衛施設の観点からも注目され,本年度より防衛施設学会AI部会の中でもその応用を検討することとなった.今後,本研究の具体的な現場での利用方法についても検討を行う予定である.
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