2021 Fiscal Year Research-status Report
インビジブルシティ(見えない都市)のエモーショナルな「見える化」まちづくり
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20K21017
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 守 筑波大学, システム情報系, 教授 (00212043)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | サイバー空間 / ハイブリッドシティ / 見えない都市 / コロナ / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はオンライン利用を通じたサイバー空間と、現在まで諸活動が行われる舞台であった実空間の両空間を、新しい時代に向けてどう調和させるかということを主眼に3年前に申請したもので、その時点ではまだ誰もCOVID-19の感染がその後に発生するものとは予測さえしていない状況であった。周知のとおりその後のCOVID-19の感染拡大では多くの活動がオンラインに移行し、その急激な社会変化は現在も続いている状況である。現在ではサイバー空間の比重が高まる中で、むしろ実空間の良さが見直されるということも起こっており、まさに本研究は新たな時代を先取りする形で取り組みが進められることとなった。 初年度の結果を反映して更に研究体制を組み直し、どのようにすれば現在のオンライン上の活動を見える化し、またそれらを必要に応じて本人のエモーショナルな気持ちを活性化して実空間上にどう取り戻すかについて、非訪問型(オンライン利用)の関係人口という観点から複数の研究成果を上梓している。サイバー空間があることによって今まで発生し得なかった実空間への道筋が存在し得ることも意識調査を深堀することによって明らかにしている。 また、サイバー空間に依拠することによって実空間での活動箇所が散逸化してしまうことに着目し、思考停止したDX推進の危険性を指摘するとともに、今後の都市計画と国土計画の連携のあり方について実データをもとに試論を提示している。これは、自動車が都市に普及していった際、後になってそのマネジメントが十分できない状況になったことと同じような空間上のコンフリクトを招くことが予想され、望ましい空間体系構築のためにオンライン自体をかしこく使うことの必要性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にも既に記載した通り、本研究課題に対して複数の審査付き論文を公表していることが、研究がおおむね順調に進展していることを示す明確なエビデンスである。特にCOVID-19の感染拡大により、結果的にサイバー空間と実空間の融合的発展を目指す本研究の必要性が大きくクローズアップされた形になっている。ちなみにこのようなパンデミック型の感染拡大は一種の災害と理解されるところであり、本研究は災害時の活動のあり方を示す防災研究としての側面もあわせて有しているといえる。 また、サイバー空間から実空間への関係人口を通じた行動変容のあり方について、国土交通省地方政策局と共同する機会を得たことにより、全国に及ぶ十分な調査サンプルをベースに、COVID-19収束後の世界の可能性を吟味できたことは大きな収穫であった。一方で、個人の意識調査などを通じ、同じ性年齢構成に属する個人であっても、両空間利用の可能性には様々な違いがあることもあわせて明らかにされた。 以上のような取り組みの結果から、COVID-19感染拡大初期の頃は明確にすることができなかった新たな検討課題について、最終年度にむけて何を行うべきかを明確にすることができたことは大きな収穫と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
インビジブルなサイバー空間(見えない都市)を見える化することで、実空間とサイバー空間の快適な融合が可能になるという仮説に基づき研究を進めてきたが、COVID-19感染拡大が我々に突き付けた現実を見ると、それより更に進んだ研究展開が求められていると言える。特に融合された新たな都市空間は高質な会員制のサテライトオフィスから鉄道駅のベンチまで実にその内容は多岐にわたっており、総じて利用者の平均的な満足度は通常のオフィスなどの実空間より低くなっている。つまり、融合された空間の中には大きな格差が存在するのが実態で、その格差をどう最小化し、全体の質を高めていけばよいかを示すことが最終年度の課題となる。 このため、まずアンケート調査などではサンプルが十分に拾えないサテライトオフィスなどでは現地に定常的に出向いてその実態を把握する必要がある。同時に、サイバー上や実空間上での関係性の構築パターンについて、個人の属性がどのように反映されているかを客観的に類型化し、個人のペルソナ化を検討する。その結果を用い、どのようなワークプレイス・マネジメント(WM)を実施することによって、どのようなペルソナにとってエモーショナルに幸福度が向上するかを客観的に明らかにする。 これら得られた結果を最終的に政策として提言するが、このような融合空間を公共が社会基盤の一種として新たに整備するのか、それとも民間が営利事業として実施するのか、それぞれのスキームの利害得失の整理を通じ、両空間の理想的な融合の促進をはかっていく。
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Causes of Carryover |
上記の現在までの進捗状況、及び今後の研究の推進方策の項でも記載したが、次年度使用額が生じた理由はCOVID-19の感染拡大の影響に伴って生じた様々な自粛行動の影響によるものである。具体的には、当初予定されていた調査出張が実施できず、また現地参加することで最新の研究動向に関する情報収集を行う予定であった学会がすべてオンライン化されたことによる。一方で、感染拡大に伴うオンライン化の進展はまさに本研究の主たるテーマであり、当初予定していた調査やデータ収集は初年度より新たな時代の要請に応じるべく、ゼロベースで見直しを進めていた。 この結果、当初は想定していなかったが、課題としてはより重要な事項として、サテライトオフィスなどの融合空間の利用をめぐる個人間の格差である。質の高いサテライトオフィスは会社等のサポートが得られるごく一部の人が利用している、当初計画していたような一斉調査型のアンケートではこのような人達は補足できない。実際にサテライトオフィスの現場に出向いて、その利用者の実態をその場で把握するという方策が一番の近道であり、また最大の成果を得る方法であるといえ、そのための調査費用として経費を活用する。
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Research Products
(8 results)